名物のカマンベールから感じるポエジー
アヤ アラン・デュカスは、この店の価値を守ることに成功した、あるいは価値をさらに高めることに成功したと思うわ。以前から質のよい海鮮を提供することで知られる店だったから。べル・エポックには、ちょっとした社交場だったらしい。例えば近くにあるクラシックコンサートホールの「サル・プレイエル」に行く前に、社交界の人々はここにきて、牡蠣を食べながら、シャンパーニュを飲んでいたという話を聞いたわ。
セバスチャン そんな洗練はこの場所に常に流れている。気取りのないシックさといったらいいか。レッシュでサービスされる食材は、そんじょそこらのマーケットでは見つけることのできない上等のものばかりで、良質を示すフランス国旗のラベルがついている。
アヤ 料理も、シンプルだけれどとても美しく、美味しかったわね。
セバスチャン アドリアンはパーフェクトな技術も持ち合わせているけれど、パーソナリティを皿に落とし込むことも知っている。彼の料理の中にはアートがあるんだ。味、色、デザイン性、プレゼンテーションが、ポエティックな調和を持って融合している。“ウニを添えた、ボラのカルパッチョ”は、素晴らしい絵画といってよかった。
アヤ そんな料理をいただいたあとに、まるまる1個サービスされるカマンベールにもポエジーを感じたわ。
セバスチャン レッシュの名前の入った木のプレートの上に、ポンとおかれている。それにそのクオリティといったらな!
アヤ そう、ノルマンディ産カマンベールよ。7区の名チーズ店「カンタン」のマリ=アンヌ・カンタンがそれを21日かけて熟成させた、見事な味わいの。
セバスチャン もしも食べきれなかったら、いたずらっぽいウィンクが飛んで来て、お持ち帰りをさせてもらえるという気遣いだってある。モダンな場所なのに、こうした人間味のある関係を、お客と店の間で交わせるというのが、アラン・デュカスの店なんだろう。
2014.02.16(日)