「これぞフランスのガストロノミー!」という感動
右:季節の野菜をあしらった一皿で、甘いニンジンのソースを和えている
セバスチャン 例えば、突き出しにサービスされた“季節の野菜のココット”。ココットには粗塩が敷かれている。その野菜を、パオロ・ヴァルがデザインしたチタンの細長いフォークで刺して、オゼイユのソースに浸すなんていうエレガンスだ。
アヤ 野菜の加熱料理はそれぞれ完璧だったわ。ミリ単位で火通しされていて、野菜はそれぞれの味わい、香り、テクスチュアをたたえていて、信じられないほどのバランスだった。また塩味もちょうど良い加減で、野菜の味わいを隠してしまうことなく、それを引き立ててくれている。
セバスチャン メニューにあるいくつかの料理は、デュカス傘下にあるパリの「プラザ・アテネ」やモナコの「ル・ルイ・キャーンズ」などの一流のレストランでも供されているものだが、ここでは、至高なる表現で、もう一度見直されていると感じたな。
アヤ クリストフの仕事は本当に素晴らしかったわね。クラシックにしっかりと根付いたモダンな料理で、すべて最上級に昇華されていたと感じたわ。
セバスチャン クリストフは何年もの間デュカス傘下に務めて、本質的な料理とは何かということをしっかりと身につけているんだよ。シンプルに優れたもの、余計なもののない料理。僕たちは、パリの最も素晴らしいパラスの真ん中で、めったに出会えないクラスのフランス料理を享受するという僥倖にあずかれた。
アヤ 私たち日本人は、長らく伝統的なフランスのガストロノミーを愛してきたけれど、とくにツーリストとしてパリを訪れたときには、本物のフランス料理の体験をしてみたいと願っているの。でも、近年は、料理のユニヴァーサル化が進んで、フランスでも国や文化としてのアイデンティティが見えない創作料理が増えているでしょ。
セバスチャン パリで食べても東京で食べてもあまり変わらない……。もちろん、アラン・パッサールのような素晴らしい料理人もいて、世界中から彼の料理にラブコールがかかるが、アラン・パッサールの個性の立つ料理だからな、フランスの伝統料理ではない。
アヤ でも今日、ムーリスで体験した料理は、代表的な、これぞフランスのガストロノミーというもので、とても嬉しかったの。しかもクラシックではなく、現代的なね。
セバスチャン 余計な化粧のされていない、フランス料理の未来へ向かう料理。
2014.02.06(木)