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長く使われるものは「使いやすい+好き」なもの

 2番目の「好きなもの」ですが、シンプルにお客様の好きな感じのものを買っていただきたい、ということです。でもお店に入ってパッと好きなものが見つかるということはありそうで、なかなかないんですよ。うつわのギャラリーってはじめて入るとき、ちょっと緊張しませんか? もう何十年もうつわの商売をやってる僕でもそういうこと、あるんです(笑)。

 そういうときはね、ギャラリー内をぐるぐると何周かしてみるといいですよ。だんだんと気持ちが落ち着いて、冷静にうつわを見られるようになります。そうすると、好きなものが目に入ってきやすい。

 「あ、これ好きだな」という直感的なところをやっぱり大事にしていただきたい。「使いやすい」だけじゃ続かないんです。長く使われるものは「使いやすい+好き」なものですね。

 3つ目の「ストーリー」ですが、これはうつわそれぞれが持つエピソードのことです。作家さんがどんな人か、どんなところで作られているうつわなのか。たとえば土に惚れ込んで、長年住んだ地を離れて移住してしまう作家さんもいます。あるいはどんな釉(うわぐすり)を使っているのかなんてことをちょっと知るだけでも、うつわに対する親しみや興味ってグッと増すもの。そういうことで思い入れが深まることもある。

 たとえばこちらは岩手県、浄法寺塗の漆(うるし)のうつわです。作者は岩舘さんという方で、彼が手掛ける作品には浄法寺塗の復興を志した道のり、その物語が詰まっています。

 「花田」のテーマは「おいしく、楽しく、食べられるもの」です。食事がよりおいしくなり、食卓が楽しくなり、そして食べやすく使いやすいを基準に選んでいます。

 うつわそれぞれに、作り手や制作のストーリーがあります。それらも含めてお伝えできたらと思いますので、ご来店の際にはぜひ店のスタッフに気軽に声を掛けて下さい。うつわとの新しい出会いを楽しめると思います。

暮らしのうつわ 花田

所在地 東京都千代田区九段南2-2-5九段ビル 1・2F
電話番号 03-3262-0669
営業時間 12:00~17:00
定休日 不定休
https://www.utsuwa-hanada.jp/

白央篤司

フードライター。「暮らしと食」、日本各地のローカルフードを中心に執筆する。新刊『台所をひらく 料理の「こうあるべき」から自分をほどくヒント集』(大和書房)が先日発売されたばかり。
https://www.instagram.com/hakuo416/

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Column

うつわのある暮らし

食を彩る素敵なうつわとともに日々を過ごす。憧れるけどなにから始めたら? フードライターの白央篤司さんが、「うつわのある暮らし」を始めるヒントを探りに、うつわの専門家を訪ねました。

2023.05.02(火)
文=白央篤司
撮影=平松市聖