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「今日はボロボロ……」弱い自分をまわりにさらけ出す

――当時いた部署では、産休育休をとった人がいなかったそうですね。「自分が最初の一人になるんだ」という、切り拓くような気持ちもありましたか?

 「ロールモデルってありますか?」とたまに聞かれるんですが、あんまり考えたことがないんですよね。そのときも、出産した女性がいないからどうということは特に考えなかったです。だって男性の上司は普通に子どもがいるわけで。妊娠の報告をしたとき、上司たちも特に驚いてはなかったですね。むしろ育休が終わって戻るときのほうが、初めてのことなので「どうしたらいいのやら」となってたんじゃないかと思います。

――昔よりはだいぶ楽になったと聞きますが、それでもバラエティの現場は時間が不規則だったりして子育てと並行するのはかなり大変そうです。

 番組数が少なく自分でスケジュールを作れるならコントロールできるところもあるけれど、たくさん抱えていたり新しいものをどんどんやろうとなると、どうしても夜や土日に仕事が発生することはあります。そこでパートナー次第になってくるところはあるかもしれません。

 でもそれって夫の側も一緒のはずですよね。なんで女性だけがそうなるの? という話ではあります。本当はそんなことないのに、「子どもが熱を出したら迎えに行くのは女性の役目」みたいなイメージが今はまだなんとなくあって、そうすると制作の現場は大変になってしまう。テレビ東京は産休育休からの復帰率は100%のはずですが、そういう理由で制作のサポート側に回る人も出てくるのかなと思います。

――この企画にあたって調べていると、バラエティの女性プロデューサーで世間に知られている方が少ないことを痛感します。

 そうなんですよね。バラエティにも女性のプロデューサーはいるのですが、まずそもそものパイが少ないので全体から見ると少なくなります。あと、ゼロイチで企画立案からレギュラーまで持っていくプロデューサーと、既存の番組をある意味シフトで担当するプロデューサーがいるのですが、もしかするとパイも少ないから前者の女性が少ないのかもしれません。自分の企画でないと、なかなか知っていただくのも難しいというかおこがましいというか。

 あと、うまく言語化できないのですが、バラエティで女性MCが少ないのと、M-1グランプリで最後まで残りにくいのと、女性のバラエティ演出家が少ないのと、編成や制作上層部に女性が少ないのとか、制作の構造や文化以上に、いろんなものがリンクしていると思います。

 「知られている方が少ない論」でいうと、何かワイワイとお互いを褒め合う?絡み合うブラザー感に入れてない。入る必要があるのか?ないのか?わからないですが、そのワイワイブラザー感が実は多くのチャンスに繋がり、外に発信する機会や「知られている感」につながるものも多いのかなと。でも、その構造も少しづつ変わってきているし、これから変わると思います。

――ご自身はロールモデルについて考えたことがあまりないとおっしゃっていましたが、下の世代がもっと働きやすくなるように意識していることはありますか?

 これといってないんですが……あえて言うなら、自分のダメなところを後輩にもどんどん出していくことは意識しているかもしれません。企画書について人に相談するようになったのと同じですね。仕事のことでもプライベートのことでも、自分を開示して「昨日撮影が終わるのが遅くて今日はもうボロボロだ……」とか「人生まわってなくてごめんなさいー」とかよく言ってます(笑)。周りの人も、これを言ったら嫌われる、ジャッジされる、弱いと思われる!とか思わずに、腹を割ってくれる環境やチームができていると思います。ていた入社1年目だろうが20年目だろうがいろいろあるんだって、知ってもらったほうがいいんですよね。

 この数年はリモート会議が増えてなかなか難しいですが、会社にいるときはできるだけウロウロしてます。そうやってデスクさんからADさん、外部のスタッフさんまで、他愛もない話を安心してできる場所をつくっておきたい。例えば、ひとくちに子育てといっても子どもの性質によって全然違うし、子どもがいなくても親の介護だったり自分の病気だったり、いろんなことがありますよね。そこで我慢しすぎて知らない間に疲れ切ってしまっている人がいないような場をせめてつくっていきたいです。

工藤里紗(くどう・りさ)

テレビ東京 制作局 クリエイティブ制作チーム プロデューサー。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2003年テレビ東京入社後。『生理CAMP』『極嬢ヂカラ』『アラサーちゃん無修正』など数多くのヒット番組を手がける。Twitter:@lisakudo777  Instagram:@lisakudo

ドラマ『ギルガメッシュFIGHT』
90年代、伝説の深夜番組を衝撃のドラマ化

12月24日(土)深夜1時15分 Paraviにて配信開始
第1話はYoutubeで無料配信も決定
出演:藤原季節 堀井新太 真島なおみ 出口亜梨沙 / 羽場裕一 大東駿介ほか
twitter:@tx_grgmfight

次の話を読む「女性が演芸班のチーフ!画期的!」悩むフジテレビ北口富紀子を変えた、太田光代社長の言葉とは?

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Column

テレビマンって呼ばないで

配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載です。

2022.12.21(水)
文=斎藤 岬
写真=平松市聖