この記事の連載
配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載が始まります。連載の第一回目である今回は、「イワクラと吉住の番組」のプロデューサーである、小山テリハさんに話を伺いました。
演者に無理をさせる笑いは抵抗がある
――「イワクラと吉住の番組」の初回を観たとき、とても新鮮さを感じました。なぜこの2人でこういった番組を作ろうと考えたのでしょう?
2人ともネタがすごく面白くて自分の色がある人たちなので、以前からぜひ一緒にお仕事をしたいなと思ってました。ひとつ大きなきっかけとしては、2021年の7月に放送された「ロンドンハーツ」の「もしも新しくコンビを結成するならあの女芸人と組みたい!」があります(吉住はイワクラを1位指名、イワクラは吉住を3位指名した)。番組内で、2人が一緒にネタをやってみたいし、ちょっと好き合っているけどお互い気にしいだから声をかけられない、みたいな流れがあったんです。その距離感にもどかしさを感じつつ、「この2人は楽屋だったらどんな雑談をするんだろう? 絶対面白いから聞いてみたい!」と思ったのがはじまりですね。
――芸人さんがテレビで披露するトークは、エピソードトークとしてある種、仕上がったものが大半です。でも、そうではない些細な出来事だったり話が脱線するったりもしますよね。「イワクラと吉住の番組」にはその後者の面白味があると思います。
番組を始めるときに、「『しっかりしたエピソードトークをしなきゃ』と思わなくて大丈夫です」というのは伝えました。そうじゃなくて「なんかこんなことあったんだけど……」という本当に些細な、子どもの頃に交換日記に書いていたような部分が見たいんです。
――2人はそれを不安がるところはなかったんですか?
初回収録後は「大丈夫でした……?」と不安そうでした。2人はこの番組が始まるまでちゃんと話したことがなかったので、「そもそも会話は続くのか?」と私たちも心配ではあったんですよ。でも、事前に2人一緒にしっかりと打ち合わせをしてしまったらそれは本物じゃない気がしたんです。距離が少しずつ近づいていくのも含めて見てもらえばいいかなと考えていました。
――番組内で、「近づきすぎちゃうとお互いのことを嫌いになる可能性がある」「このぐらいの距離感が一番好きなままいられる」と話していたのが、本当にリアルで良いなと感じました。こういった感情に、自分も身に覚えがあります。
ありますよね。私もめっちゃわかります。イワクラさんと吉住さんががどういう関係になっていくかは完全に委ねていて、そこに介入しようと思ったことはないんですよ。仲良くなりたければなってもらっていいし、そうでもないなら無理しなくていいし。最近はあえて距離を持つのを本人たちが面白がってる感じもあるんですけど(笑)、初期に比べたら収録の間にちょこちょこしゃべってるので近づいてきたと思います。その速度は人よりめちゃくちゃ遅いのかもしれないけど、それがいいなって。そういうところを笑いにしようとはまったく思わないですね。
――これまでのテレビバラエティだと、「嫌い」はショーアップされるけど、そういう微妙な距離のとり方は“おもしろ”にしづらい要素でしたよね。
たしかに、「あんたのそういうとこ嫌いやねん!」みたいな笑いがデフォルトになっている部分はありますよね。もちろんそこで「嫌い」というのはお笑いであって、本気で嫌いな人にはやらないんでしょうけど、私自身はあんまりそういうのはやりたくないかもしれないですね。それが仕事ではあっても「無理させてる」と思ってしまいそうです。
それに、私自身がテレビでそういうお笑いを観て「今これを楽しめるほど元気じゃないんだよな」と感じるときがあるんですよ。「イワクラと吉住の番組」の感想で「大きい声を聞くのすらつらいときに、それでもつけられる番組」というようなことを書いてくれている人がいたんですが、こんな風に受け取ってもらえるのはすごくうれしいです。
2022.10.22(土)
文=斎藤 岬
写真=平松市聖