この記事の連載
配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載です。
今回は、『世界ウルルン滞在記』『Wの悲喜劇~日本一過激なオンナのニュース~』などの番組を手がけ、『Wの悲喜劇』内の企画「今だからこそメディア業界のセクハラ問題を考えようSP」に当事者として出演しテレビ業界におけるハラスメントについて語った、制作会社「テレビマンユニオン」所属のプロデューサー・津田 環さんにお話を伺いました。(前後篇の後篇/前篇を読む)
業界のハラスメントについて、当事者として発信
――2018年5月に、津田さんが手掛けられていた『Wの悲喜劇~日本一過激なオンナのニュース~』(Abema)で「今だからこそメディア業界のセクハラ問題を考えようSP」という企画が配信されました。津田さんも出演され、ご自身が若手の頃に受けてきたセクハラ・パワハラについて語られました。ただ、所属されている会社からは出演を反対されたそうですね。その結果、仮面をつけて仮名での出演になった、と。
そうそう、あれは失礼な話でしたね。「仮面をつけて出ろ」って、納得いきませんでした。うちの会社も結局、テレビマンの会社ですからね。みんな、昔やっていたことを掘り起こされたくないんです。
仮にハラスメントが起きた番組名や、ハラスメントをした個人名を出さずに話したとしても、今はちょっと調べればわかることが多いから、「この会社、そんなことやってたんだ」と言われたくないってことでしょう。でも、そんなことのために、被害に遭ったという事実を言わないってことはないですよね。
社内に限らず、テレビ業界はハラスメントが横行していました。私よりもっとひどい目に遭っている人もいっぱいいる。そのことについて、表立って発言する人は少ないんですけどね。
――津田さんがテレビ業界に入られた頃は、今よりもっと女性の制作者が少なかったと思います。セクハラもパワハラも常態化している中で、女性たちの間ではそうした情報は共有されていたんでしょうか。
されていました。「今タクシーの中でおっぱい触られて……」って泣きながら電話がかかってきたり、「◯◯のPはいつもお尻触ってくるから気を付けて」って聞いたり、そんなのはもう日常茶飯事。
――ですが、おっしゃる通り、そうした話が女性のテレビ制作者の口から語られる機会は今でも少ないですよね。もちろん、向き合うのがつらいことだからというのはあるとして。
そこはすごく難しいんですよ。そういうことがあったと認めてしまうと、自分がやってきたことを否定された気になってしまうんだと思います。「“女子ボーナス”みたいなものがあったから私は今、このポジションにつけているんだ」と自分を捉えることにつながってしまったり。
――それはつまり、キャリアを積んだ今になってセクハラを受けた過去を公表すると、「女だから、セクハラを受け入れたことで上に行けたんだろう」と思われてしまうから言えない、ということでしょうか。
そういう偏見はあると思います。もしかしたら、自分自身でそう感じてしまっている人もいるかもしれない。でも、本当はみんな、性別に関係なく自分の能力をきちんと評価してほしかったという気持ちはあるだろうし、むしろハラスメントに遭うことがなかったら、もっと良い仕事ができていたであろうこともわかっていると思う。みんな優秀だったから。
あとは、当時そこで戦わなかった自分を責められたら……という気持ちもあるのかもしれない。
――自分自身や、同じ道を歩く後輩のために戦わなかったことを。
そうなんじゃないかなと私は思ってます。だから「もっとみんな言いなよ」とはあんまり言えないんですよ。「あのとき言わなかったお前が悪い」と言っているみたいになっちゃう。言えない気持ちもわかるから、しょうがないですよね。
『Wの悲喜劇』に出た後、女性のプロデューサーやディレクターからは嫌な顔をされることもありましたが、彼女たちもつらいと思いますよ。心の中に何もないとは思わない。
だから、「てめぇ、余計なことするなよ」って私に思っているかもしれない女性のためにも戦おうと思ってるんです。だって、彼女たちがいつかこの仕事を引退して死ぬ間際に「あのとき、男たちに変な嫌がらせをされなかったら、もっと良い番組を作れたかもしれない」って思うかもしれないから。なので、私は諦めないですね。
2024.11.07(木)
文=斎藤 岬
写真=杉山拓也