この記事の連載

 配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載です。

 今回は『上田と女が吠える夜』(以下『吠える夜』)およびそのスピンオフ番組『上田と女がDEEPに吠える夜』(以下『DEEPに吠える夜』)を手掛け、女性として初めて『24時間テレビ』の総合演出に抜てきされた日本テレビ・前川瞳美さんにお話を伺いました。(前後篇の後篇/始めから読む)


番組レギュラー化で「やり方を変えたいと思った」

――ゴールデン帯で放送されている『吠える夜』は、2016年に『ニノさん』の中で放送された単発企画『女が嫌いな女たち』をパイロット版としてスタートしています。その後『女が女に怒る夜』として何度か特番放送された後、2022年春からレギュラー化されました。レギュラー化前のタイトルは「女性VS女性」という構図の印象が強いですが、現在は「ズボラに暮らす女VS丁寧に生きる女」「メンタル強い女VS弱い女」などサブタイトルに「VS」が入ることはありつつも、あまり女性同士が噛みつき合うような内容にはなっていないですよね。

 争わせる意志があるわけではなくて、「噛みついてください」とか「やりあってください」といったお願いはまったくしていないです。ただ、最初の『女が嫌いな女たち』のときは完全にそういう意図がありました。そのときの自分は非常に未熟だったなと思います。

 本来は「女性が愚痴を言う番組」というだけの企画でなんの問題もないはずなのに、なぜそこで「女性VS女性」にしたのかという理由を今考えると、やっぱり男性中心のテレビ業界で男性に嫌われないテイストを少し入れておきたい、という気持ちがあったんでしょうね。

 今、SNSで番組の感想を見ていると「昔はものすごくミソジニー的な番組だったのに、いつのまにかフェミニズム番組になってる」みたいなことをたまに書かれているんですよ。それはまさしくそうだな、と感じます。

――どこかのタイミングで「これはよくないから、やめましょう」となったんですか?

 そうですね。『女が女に怒る夜』は、特番で何年かやらせてもらった後、2年ぐらい何もない時期があったんです。「もう終わった番組なのかな」と思っていたんですけど、社内にファンがいてくれて「レギュラーでやらないか」って話をいただいて。

 そのときに「だとしたら、今の自分の感覚はあの頃とは違っているから、やり方を変えたほうがいいんじゃないか」と考えて、変えました。『女が女に怒る夜』のときの自分は未熟で気付けなくて。本当に、そういうことばっかりですね。

――でもそれをご自身で認識して、番組をやりながら「これは違った」という思いを口にできるのは結構すごいことのように思います。それができない人や、しない人も結構いるんじゃないでしょうか。

 その境地に至れてよかったな、とは思います。だから『DEEPに吠える夜』は、贖罪のようなつもりでやっている感覚があるんですよ。これまで自分や、自分だけじゃなくテレビ業界がやってきた良くない刷り込みを正すというか、それに対する償いの気持ちがあって。そういう妙な正義感でやってるところはありますね。

2025.06.04(水)
文=斎藤 岬
写真=平松市聖