この記事の連載
テレビマンって呼ばないで#1 小山テリハ
テレビマンって呼ばないで#2 工藤里紗
テレビマンって呼ばないで#3 北口富紀子
テレビマンって呼ばないで#4 松本京子
テレビマンって呼ばないで#5 青野華生子
テレビマンって呼ばないで#6 二木佑香
テレビマンって呼ばないで#7 本間かなみ
テレビマンって呼ばないで#8 祖父江里奈
テレビマンって呼ばないで#9 岡部知穂 前篇
テレビマンって呼ばないで#10 岡部知穂 後篇
テレビマンって呼ばないで#11 津田 環 前篇
テレビマンって呼ばないで#12 津田 環 後篇
テレビマンって呼ばないで#13 片岡明日香 前篇
テレビマンって呼ばないで#14 片岡明日香 後篇
テレビマンって呼ばないで#15 前川瞳美 前篇
テレビマンって呼ばないで#16 前川瞳美 後篇

配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載です。
今回は『上田と女が吠える夜』(以下『吠える夜』)およびそのスピンオフ番組『上田と女がDEEPに吠える夜』(以下『DEEPに吠える夜』)を手掛け、女性として初めて『24時間テレビ』の総合演出に抜てきされた日本テレビ・前川瞳美さんにお話を伺いました。(前後篇の前篇/後篇を読む)
美大で才能に圧倒され挫折……テレビの道へ
――2010年に入社され、現在は『吠える夜』と『DEEPに吠える夜』で演出を務めていらっしゃいます。もともとテレビ業界を志したのはどんな理由からだったんでしょう?
私はもともと美術作家になりたいと思って美大に入ったんですね。ただ、入学したら周りに才能のある人がすごく多くて、半年ぐらいで挫折してしまって。そこから自分にしかできないことを探していくうちに、自作自演のコント映像を撮るようになりました。
いってしまえばYouTuberの走りみたいなことをやっていて、大学の中ではちょっと面白がってもらえたんですけど、『美術』という枠の中で作品を作っても、一部の人にしか見てもらえないというジレンマがあったんです。それで「もっとたくさんの方に見てもらいたい」と思ったときに、テレビという選択肢が出てきました。
――どんなコントをやっていたんですか?
ショートコント的なものをドラマ仕立てでやっていて、とにかくシュールな感じでしたね。突然嘔吐して、吐いたものの中に彼氏からもらった指輪があって……みたいな(笑)。そういうよくわからない雰囲気の映像だったと思います。
――美大を出てテレビ業界に入る方は珍しいのではないでしょうか。
全然いないですね。美術セット等の制作のほうには大学の先輩がいますけど、番組制作をやりたがる人はほとんどいないと思います。そもそも美大生はそんなに就職活動をしないんですよ。やっぱり美術作家になることがいちばんの成功であって、就活をしている時点である種の落第者というか。だから当時はなんとなく周りにコンプレックスを感じながら就活をしていた記憶があります。
――逆に入社試験では面白がられなかったですか?
面白がってくれたのは日テレだけだった気がしますね。テレビ業界しか受けてないんですけど、他局は全部一次面接で落ちたんです。だから多分、そこを唯一評価してくれたのが今の会社だったのかな、と。
――そして入社してバラエティの制作に配属に。
入社から今に至るまで、一度も他部署は経験せずにずっとバラエティです。最初はADとして『人生が変わる1分間の深イイ話』に入って、その後『月曜から夜ふかし』でディレクターになりました。
――ご自分で立てた企画が初めて通ったのはいつ頃ですか?
2年目の冬くらいだったと思います。今となってはすごく言いづらい感じの番組ではあって、なんて言ったらいいのかな……要するに、ルッキズムへのアンチテーゼのつもりで、「グラビアのような、容姿の優れた人がやる仕事に女芸人さんが挑戦する」という番組でした。今思えば思いっきり容姿で人を判断するような内容で、本当に未熟だったなと反省しています。
――今回はまさにそのあたりのことについてうかがいたくて。入社から現在に至るまでバラエティ番組を作ってこられた中で、「あ、こういう笑いはもう視聴者に受け入れられないな」「こういう作り方はやめたほうがいいな」と社会の変化を如実に感じたタイミングはあったんでしょうか。
そこは本当にこの3~4年かな、という気がします。誰かの容姿を揶揄して笑おうなんて企画は、今はほとんどなくなってきました。もちろん、しっかりした意識を持っている方は昔からそう考えていらっしゃったでしょうけど、全体的に「とにかく絶対にそういうことはしちゃダメだ」という感覚までアップデートされたのはそれぐらいの時期だったように思います。

その線引きは今もどんどん変わっていってる感覚がありますね。たとえば、「私、おばさんだから」とか「もうシワシワですよ」みたいな自虐をよしとするかどうか、今すごく判断が難しいラインだなと思っていて。基本的には「そういうのはやめていこう」という方向になっていっていると思うんですが、一方で、そうした自虐ネタで笑いをとってきた女性芸人さんを否定したくない気持ちもあります。
とはいえ、特に若い子を中心に、お客さんが全然笑わなくなっているのはたしかで。だから近い将来、自虐もなくなっていくんだろうなとは思います。
2025.06.04(水)
文=斎藤 岬
写真=平松市聖