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タレントさんが話せることは限られている

――『吠える夜』『DEEPに吠える夜』はいずれも、くりぃむしちゅーの上田晋也さんがMCを務め、オアシズ大久保佳代子さんや若槻千夏さんなどレギュラー陣をはじめとする女性たちがひな壇でトークするという内容です。まずは深夜帯の『DEEPに吠える夜』について聞かせてください。2024年4月からレギュラー化された同番組では性教育、ルッキズム、不妊治療、ADHDなど、社会的に重要なトピックを取り上げています。このテーマはどうやって決めているんですか?

 自分が普段から気になっていることのほかに、自分の感覚に近い人をSNSでフォローしていて、そういった方々が日頃話されている内容からピックアップすることはあります。それから、スタッフのリアルな悩みや興味関心があることを会議で上げてもらって、そこから拾い上げることも多いです。

――過去のインタビューでは「少し過激に見えたり、繊細なテーマを取り上げることも多いので、いろんな人に『倫理的に違和感があったら言ってください』お願いしている」とおっしゃっていました(「マイナビニュース」2024年5月15日掲載「『上田と女が吠える夜』前川瞳美氏、現代の清少納言たちが見せる着眼点の面白さ「悪口」を「共感」に昇華」)。それはどういった方に指摘をお願いしているんでしょう?

 基本的に私がテーマを決めているので、まずはスタッフにお願いしています。ただ、たとえば過去に「ワンオペ育児」を扱ったように、子どもがいることを前提にしたテーマをやることもあるんですね。私は子どもがいないですし、これは業界全体の課題でもあると思うんですけど、スタッフにも子どもがいる人がほとんどいなくって。

 そうなると母親目線で「これは間違っている」「こんなこと言われたら腹が立つ」みたいなものになっていないかどうか、わからないんですよ。そういうときは、伝手をたどって実際にワンオペ育児をされている方に取材をして、率直な意見をいただいています。

――それでいうと、『DEEPに吠える夜』では毎回、テーマに合わせて街の人や経験者の声を拾ってVTRとして入れていますよね。30分番組という短い尺の中で、かなり労力がかかっているように思います。

 街録は良いコメントがとれるまでひたすら録りに行くものなので、たしかに単なるトーク番組のカロリーではないかもしれないですね。過去に取り上げたテーマでいうと、不妊治療をされている方や不登校の経験がある方などは街中で探すのは大変なので、専門のクリニックに行ったり不登校のケアをされている施設に行ったりしてお話を聞いています。

――その労力を惜しまないのは、前川さんが『月曜から夜ふかし』でディレクターをやっていた経験と関係していそうです。

 それは少しあるかもしれないですね。やっぱりリアルな声がいちばんおもしろいし、興味深いので。タレントさんはやっぱり、話せることがすごく限られているんですよ。“タレント”という立ち位置でのトークしかできないので、視聴者からしてみればそれだけでは拾いきれない感情があるし、全部共感できるわけでもない。そういう部分を街録で補っている感覚です。

――タレントさんが話せる話題は限られているというのは当たり前のことではありますが、制作側の方がそれをはっきりおっしゃるのは珍しい気がします。

 こういう番組だからなおさら、ってところはあるかもしれません。『吠える夜』も『DEEPに吠える夜』も、共感という部分をすごく大事にしています。

 たとえば「ひとり親の貧困」というテーマを取り上げたいと考えたとき、タレントさんだと「貧困」ってピンとこないですよね。それこそ「ワンオペ育児」も、視聴者の方からすれば「タレントなら誰かの手を借りられるんじゃないの?」と思ってしまう部分もあるはずです。出演者の方が語りきれないと思うテーマは、やりたくても選んでいないところはありますね。

2025.06.04(水)
文=斎藤 岬
写真=平松市聖