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満を持して放送した「フェミニズム回」

――繊細な過程の上で番組が成り立っているのですね。そして今年3月には「フェミニズムって何?」とまさに直球のテーマの回が放送され、大きな話題を呼びました。これまで取り上げてきたテーマを踏まえた上での、満を持しての回だったように感じました。

 かなり満を持しましたね。この番組自体、いってしまえばフェミニズム的な感覚で作られているんですが、やっぱり「フェミニズム」って言葉だけでものすごいアレルギー反応を起こす方もいらっしゃるじゃないですか。それはわかっていたことだったので、「フェミニズム」と題して扱うことに対してはとても勇気がいりました。

 自分は興味があるけどちょっとやりづらいな……とずっと思っていたんですけど、国際女性デーに合わせての放送ということであればいいのではないか、と考えて勇気を出してやりました。

――MCである上田さんの「“古き良き昭和”っていうけど、あれは結局、本当にごく一部の男にとってだけ良かった時代なんだろうね」といった発言も、視聴者の間で驚きと喜びをもって受け止められていました。上田さんは『吠える夜』のパイロット版からMCを務められていますが、この起用はどういった狙いがあったんでしょう?

 最初にお願いしたときは単純に、あれだけの大人数がいる中で、どのタレントさんの話にも必ずオチをつけて回してくれるというMCとしての能力を頼りにしてのことでした。

 でも番組をやっていく中で、上田さんが根底で女性に対して敬意を持っている上に、やっぱり非常に聡明な方でいらっしゃるので、今まで自分が触れてこなかった意見もフラットに吸収して理解してくださっているのはうれしい誤算でしたね。そこまでわかってオファーしたわけではなかったんですけども、結果的に上田さんにしかできない番組になっていると思います。

 フェミニズム回での発言は感動しました。上田さんの思考がそんなところまでいってるとは私も知らなくて。あの年代の男性で「昔は良かったよな」なんて言わない人がいたんだ! って、すごく嬉しくてあの言葉を聞いた瞬間は涙が出そうになりました。番組中でも言っていましたけど、ほとんどフェミニストだな、ってぐらいでしたよね。

――本当に、あの発言はかなりの衝撃でした。前川さん自身は以前からフェミニズムに興味があったのでしょうか?

 多分、その種みたいなものは社会人になってからずっと感じていたんじゃないかなと思います。学生時代は男女差別を感じる場面はそんなになかったような気がするんですけど、やっぱり働くようになってからモヤモヤすることが増えて。ただ、「自分はフェミニストなんだ」という答えに行き着いたのは本当にこの1~2年、『DEEPに吠える夜』を始める頃ぐらいだった気がします。

――おっしゃった通り、「フェミニズム」「フェミニスト」というものに対してアレルギー的な反応を示される現状で、「自分はフェミニストです」って言葉として引き受けるのは覚悟が必要になってしまうところもありますよね。

 「フェミニストです」と言うことのメリットはあんまりないとは思いますね(苦笑)。でも先人たちがやってきてくれたことの積み重ねの上に今があるわけで、自分も「私はフェミニストではありません」とは言えないな、って感覚がありますね。

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前川瞳美

日本テレビ番組プロデューサー・ディレクター。1988年生まれ、兵庫県出身。多摩美術大学絵画学科油絵専攻卒業後、2010年に日本テレビ入社。現在は『上田と女が吠える夜』『上田と女がDEEPに吠える夜』『キントレ』で企画・演出、『世界の果てまでイッテQ!』でディレクターを担当する。

次の話を読む前身番組『女が嫌いな女たち』から一変…『上田と女が吠える夜』ディレクターが明かす、番組が辿った“道のり”と“後悔”「やり方を変えたいと思った」

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Column

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配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載です。

2025.06.04(水)
文=斎藤 岬
写真=平松市聖