この記事の連載
テレビマンって呼ばないで#1 小山テリハ
テレビマンって呼ばないで#2 工藤里紗
テレビマンって呼ばないで#3 北口富紀子
テレビマンって呼ばないで#4 松本京子
テレビマンって呼ばないで#5 青野華生子
テレビマンって呼ばないで#6 二木佑香
テレビマンって呼ばないで#7 本間かなみ
テレビマンって呼ばないで#8 祖父江里奈
テレビマンって呼ばないで#9 岡部知穂 前篇
テレビマンって呼ばないで#10 岡部知穂 後篇
テレビマンって呼ばないで#11 津田 環 前篇
テレビマンって呼ばないで#12 津田 環 後篇
テレビマンって呼ばないで#13 片岡明日香 前篇
テレビマンって呼ばないで#14 片岡明日香 後篇
テレビマンって呼ばないで#15 前川瞳美 前篇
テレビマンって呼ばないで#16 前川瞳美 後篇
テレビの世界にもある「性別役割意識」
――作り手の男女バランスの問題について先ほど少しお話しましたが、前川さんが働いてきた15年間で、テレビ業界のその問題は多少は是正されてきたと感じますか?
人数のバランスに関しては多少されてきている気がします。ただ、役職の中でのバランスはあまり変わっていないですね。
制作の仕事では大きく分けるとプロデューサーとディレクターという役割があって、プロデューサーは主に番組におけるリスク管理やブッキングなどをやり、ディレクターはVTR制作などクリエイティブ全般をやる仕事です。若い女性スタッフに「将来どういう役職に就きたい?」と聞くと「女性はプロデューサーになる人が多いから、自分もプロデューサーになりたいです」って言われることがあって。そういうときはちょっと寂しい気持ちになりますね。
ディレクターをやっている女性が少なくてロールモデルが不在だから、「自分が何をやりたいか」よりも「女性はプロデューサーになるものなんですよね」というところで選んでしまっているのかな、って。
――男性はADからディレクターになって総合演出になるロールモデルが多数存在しますが、女性はたしかにADからそのままアシスタントプロデューサー(AP)になってプロデューサーになる方が少なくない印象です。
ディレクターを経験しない女性も結構いますね。APさんはタレントさんのケアやプロデューサーのサポートなど、ケア的な業務が多い役職です。社会全体になんとなく「人のケアをするのは女性のほうが向いている」みたいな刷り込みがあるじゃないですか。実際は別にそんなことないと思うんですけど。「女性はADからAPになってプロデューサーになるものだ」というイメージが根強いのと、その刷り込みは無関係ではないと思います。
――そんな中にあって、今夏の『24時間テレビ』では女性として初めて総合演出を務められます。これはやはり大役ですよね。
2年ぐらい前から「多分そろそろ任命されるよ」とは言われていたんですけど、なかなか覚悟ができなくて。視聴者の方からお金をお預かりする番組ですし、注目度も高いので、いい加減な気持ちではできません。自分にとっては聖域に近いものであると同時に、「『24時間テレビ』はもっとこうあるべきだ」「もっとこうしていきたい」という気持ちもあったがゆえに、「今の自分にできるのかな」という葛藤がすごくありました。今年に入ってからやっと覚悟を決めて取り組んでいるような感じですね。

――覚悟が決まるまでにはどういう過程があったのでしょうか。
『24時間テレビ』をやるからには、ありとあらゆる社会問題に対してアンテナを張っていないといけないと私は思っていて。そうじゃなければ「この番組を通してどういうメッセージを発信していきたいのか」を考えられないですよね。やっぱり、社会を良くするためにやらないと意味がないですから。
「そろそろだよ」と言われた当初は、そのためのアンテナが自分に備わっているのか自信がありませんでした。「『24時間テレビ』の総合演出たるもの、こうあるべし」という理想が自分の中にあって、そのためには人間丸ごと中身が変わるぐらい勉強したり、アンテナを磨いて興味を持ったりしなきゃいけない。そういうところで時間をかけて準備をしました。
――『吠える夜』のレギュラー化が3年前、『DEEPに吠える夜』が1年前からですよね。社会的に議論になっている話題を取り上げる番組を続けてきたことと、そのアンテナを磨くことはリンクしていたのかなと今うかがっていて思いました。
たしかに、これが3年前だったら断っていたかもしれないです。断る権限があるのかわからないですけど(笑)。『DEEPに吠える夜』は女性の権利問題が中心なので狭くはありますが、社会課題にすごく意識が向いていた時期だから受けられた部分はある気がしますね。
――これから夏に向けて加速度的に忙しくなっていくわけですね。
忙しくなってくると、いろんな物事を決める作業が最優先になるので、自分の理想だけを追求するわけにはいかなくなるところに難しさを感じてますね。「もっとこうしたい、ああしたい」をうまくアウトプットできるのか不安はありますが、どういったものになっているか、放送を楽しみにしていただければと思います。
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前川瞳美
日本テレビ番組プロデューサー・ディレクター。1988年生まれ、兵庫県出身。多摩美術大学絵画学科油絵専攻卒業後、2010年に日本テレビ入社。現在は『上田と女が吠える夜』『上田と女がDEEPに吠える夜』『キントレ』で企画・演出、『世界の果てまでイッテQ!』でディレクターを担当する。

Column
テレビマンって呼ばないで
配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載です。
2025.06.04(水)
文=斎藤 岬
写真=平松市聖