この記事の連載

 異国の地での暮らし、踊り続けること。バレエは自身の「ライフスタイル」だと語る永久メイさんにとって、ロシアでの生活もまた、彼女の芸術表現の一部だ。白夜の町、サンクトペテルブルクで得たインスピレーション、舞台表現へのこだわりやセルフケアなど、彼女の人生観と表現の源泉について語ってくれた。

【前篇】「ロシアでは毎日舞台に立つのが基本」世界屈指のバレエダンサー永久メイが感じたロシアと日本でのバレエ生活の“違い”


白夜の街がくれるインスピレーション

――ロシアでの生活で、文化の違いや驚いたことはありましたか?

 たくさんあります(笑)。日本にいた頃はロシア料理について何も知りませんでしたが、ロシアに来てから先生が作ってくださったボルシチをいただいた時、とても美味しくて、日本で想像していたものとは別物でした。

 ピロシキも日本にありますが、日本人がイメージするピロシキだけではなく、いろんな具材の入ったものがあって種類も豊富です。

 海外生活の中でいつも恋しくなるのは日本のコンビニです。あの小さな空間に食べ物から日用品まで全てが揃ったコンビニの凄さ、そしてクオリティの良さに帰国する度に驚かされます。ちょっとした食べ物や日用品も、気軽に手に入るとは限らなくて、日本のコンビニがどれだけすごいかを改めて実感しました。

 サンクトペテルブルクは大都市であるモスクワとは街の雰囲気が違います。建物はヨーロッパ風なものが多く、散歩しながら建物の細かい彫刻やディテールを見て、感動するほどです。そんな建物の写真をマイカメラで撮ることも好きです。どこを撮っても素敵な写真として残せますし、そういう場所に身を置いていると、舞台に立つときのインスピレーションにもつながります。

――特に好きな季節や、気に入っている風景などはありますか?

 マリインスキーでは“白夜祭”というバレエやオペラの上演する芸術祭がありますが、私はそれが行われる白夜の季節が大好きです。白夜とは、夜になっても明るくて、ずっと昼間のように感じられる不思議な時間です。

 でも、それが特別に感じられるのは、ロシアの冬がとても日が短いので暗くて寒いからこそだと思います。そういう冬を経験していると白夜の光が嬉しいし、温かい気持ちでいられるので、自然と気持ちもポジティブになります。

――お休みの日は、どのように過ごされていますか?

 マリインスキー・バレエは毎日のように公演があって、基本的に週に1日休めるかどうかくらい忙しいので、休みの日はまずしっかり体を休めるようにしています。

 私は家でじっとするより、リフレッシュのために外で散歩する方が好きです。新しいカフェを開拓して新しいスイーツを試したり、お気に入りの美味しいスイーツを食べたり……ロシア特有のスイーツというより、誰もが知っているチーズケーキとかチョコレートとか、甘いものが大好きで、それが一番の気分転換になりますね。

――セルフケアやコンディション管理で意識していることはありますか?

 日々のリハーサルや舞台があるので、特別なことをしているわけではないんですが、バレエそのものがライフスタイルの一部なので、私にとってのルーティンになっています。

 だから、バレエをしていることで気持ちも落ち着きますし、自分のペースで生活することが、いちばんのセルフケアになっている気がします。

 バレエは小さい頃から続けてきて、辛くてもやめようとは思わないですし、やめてしまったら自分ではなくなってしまう感じがします。だからバレエのない生活は考えられないです。

2025.07.16(水)
文=山下シオン
撮影=深野未季