広告やファッション誌はもとより、“バレエ写真家”としても活躍している井上ユミコさんがバレエ公演、『EOL(イー・オー・エル)』でクリエイティヴ・ディレクションを務める。

 『EOL』とはドイツやイタリア各地で好評を得たバレエ公演『Echoes of Life』の邦題で、ハンブルク・バレエ団プリンシパルのシルヴィア・アッツォーニとアレクサンドル・リアブコ夫妻が、自らを映し出すように描いた愛をテーマにしたストーリーバレエ。ピアノの生演奏と彼らの身体表現のみで構成されたものだ。

 このたび日本の観客のための特別版として、2025年5月に待望の初演が上演される。この崇高な芸術作品に井上ユミコさんの視点が加わることで、どのように観客を魅了してくれるのだろうか。


バレエへの偏見が変わった瞬間

――井上さんが魅了された“バレエとの出会い”について教えてください。

 2016年にパリ・オペラ座バレエ団が大好きな某ファッション誌の編集者の方から、「パリ・オペラ座バレエ団のエトワール達が来日するガラ公演があるので、リハーサルの独占潜入取材をお願いしたい」というご依頼をいただいたことがきっかけです。

 もともと私はバレエに関心がないばかりか、バレエと聞くとお姫様と王子様が登場するロココ調の世界観をイメージするという偏見のかたまりでした。

 ところが撮影でリハーサル室を訪れた際にそのイメージは一気に吹き飛ばされてしまったんです。バーレッスンから始まって、フロアのレッスンに進んでいくにつれて、ダンサー達はそれまで着込んでいたウェアを次々と脱ぎ、狭いリハーサル室を対角線にバンバンと飛んでくるのです。

 身体の隅々にまで意識が行き届いた彼らの肉体を観た時、私はその力強さと信じられないくらいの美しさに圧倒されました。

 パワフルで、スピーディで、彼らの動きにシャッターが追いつかず、写真的に敗北感を味わっていましたが、写真家としては雷に打たれたような衝撃を感じていました。バレエダンサーの存在そのものが芸術だと思ったのです。

2025.02.10(月)
文=山下シオン
写真=佐藤 亘