この記事の連載
- 舞台『マスタークラス』インタビュー【前編】
- 舞台『マスタークラス』インタビュー【後編】
宝塚歌劇団を卒業して3年。すでにミュージカル界において「この人アリ」と言われる俳優として名を馳せている望海風斗さんが、ストレートプレイに挑戦する。しかも、マリア・カラス役――。
『マスタークラス』は「オペラの歴史を変えた」と評され、レジェンドとも言われるソプラノ歌手、マリア・カラスが晩年、ジュリアード音楽院で教鞭を取っていた様子を舞台化したもの。マリア・カラスの大ファンだった黒柳徹子さんが演じていたことでも有名な作品です。
歌唱力の素晴らしさでは群を抜いている望海さんが、敢えて“歌を歌わない”脚本で“オペラ歌手”を演じるとあって、すでに話題沸騰中。常に進化しながら新しいチャレンジを行う望海さんに、今の心境を伺いました。
今から「間に合わないんじゃないか」と、心配で寝られないこともあります(笑)
――初のストレートプレイ『マスタークラス』への挑戦となりますが、この作品を演じられることになった経緯や想いをお聞かせください。
いずれはストレートプレイに挑戦したいという想いがずっとありました。この作品は黒柳徹子さんがされてから20年以上日本では再演がなかったものであり、私も知らなかったのですが、事務所の社長から「とてもいい作品だから」と勧められて脚本を読んでみたんです。
最初は自分にできるだろうかと、大きな山を乗り越えるような作品なのではないかと思ったのですが、それと同時にそういったものに挑戦する機会はなかなかないので「やってみたい」という気持ちが湧いてきて。
マリア・カラスについても詳しくは存じ上げなかったので、そこから取り組み始めたという感じです。知らなかったことに対して視野が広がっていく機会は本当に希少なので、ありがたい限りです。
――ストレートプレイに挑戦したいという気持ちはいつ頃からお持ちだったのですか?
ミュージカルのお稽古では芝居そのものの研究よりも歌やダンスを通じた表現を考えることが多いので、芝居をキャスト全員でガッツリ深めていくという作業はあまりやらないことが多いんです。
でも『ガイズ&ドールズ』で出会ったマイケル・アーデンや、『DREAMGIRLS』でお世話になった眞鍋さんとお仕事をご一緒した辺りから、お芝居をもっと知っていきたいと思いました。
――意外です! 宝塚にいらっしゃるときから“演技派”のイメージでした!
ありがとうございます。宝塚を観に行ってハマったのはショーだったので、お芝居を「面白い」と思い始めたのは遅かったと思います。雪組に組替えして、早霧せいなさんと咲妃みゆさんのトップコンビと一緒にお芝居をするようになってから、改めて「お芝居って面白い!」と思うようになったんです。
『星逢一夜』で演出家の上田久美子先生にお会いしてから、「どうやって皆さん芝居をしているんだろう」と考えるようになりました。トップのときは相手役の真彩希帆さんや周囲の方々といろいろ話して試しながらお芝居を作っていったので、それはすごく楽しかったですね。
――『マスタークラス』の脚本を早速読ませていただきました。ほぼ一人芝居に近く、しかも膨大なセリフ量で驚きました。
そうなんです! あのセリフ量にも正直、少しおそれていて(笑)、かなり前から色々勉強させていただています。
今回はオペラを歌うわけではないのですが、マリア・カラスはオペラ歌手なので、オペラの発声も知らないままにやるのは違うかなと思っていて。オペラやイタリア語の発音、あとオペラの発声についてなどの勉強会を開いていただいたり……。
本当に入り口の部分だけなのですが、オペラの発声がどういうもので、オペラの歌がどうなっているのかなどは、早いうちから少しずつ勉強させてもらっています。でも、やればやるほど奥が深すぎて、手が付けられないというか……。膨大で。
――望海さんは今までも大きな山をたくさん越えてこられたと思うので、その姿勢自体が望海さんらしいなと思います!
でも、もう今から「間に合わないんじゃないか」みたいな気持ちが押し寄せてくるんですよ(笑)。結構寝られないというか……。考え出すと、「ああ、とんでもないことが待っている」という気持ちになってしまって(苦笑)。
――マリア・カラスという人物に対して抱いているイメージや望海さんの解釈などを聞かせていただけますか?
オペラ歌手、そしてソプラノ歌手の中でも本当に群を抜いて素晴らしい歌手だったということ、そしてあとはちょっと“怖い”という印象がありました。実際に台本を読んだり、彼女について調べていく中で、カラスがいばらの道を闘い抜いてきた、生き抜いてきたということが見えてきました。
彼女は決して恵まれた環境で育ったわけではなく、愛に飢えながらも、あの地位まで昇りつめていきました。すべてが完璧だったわけではないからこそ、人を魅了したのでしょうし、美しさの陰には血のにじむような努力があってこそ、だったのだと思います。
あと、彼女の「厳しさ」という面は、自分自身にも本当に厳しくしてきた人だから、というのがあると思います。それだけの闘いをしてきたんでしょうね。生き残ることの難しさを知っているからこそ、他人に対して甘やかすことなく教えようとしたのではないでしょうか。
あれだけの大きなステージをやりこなすというのは、それぐらいの方でないとできないと思うんです。あと、本質的にはすごくユーモアを持っていた方だとも思います。でも、他人にはなかなか伝わりにくかったのかなって。
2025.01.18(土)
文=前田美保
写真=榎本麻美