宝塚歌劇団在団中から、観客の心に訴える圧倒的な歌声と表現力、深みのある芝居で、高い人気を誇るスターだった望海風斗さん。

 退団後の目覚ましい活躍ぶりと、出演作を重ねるごとに高まる評価は、元宝塚や元トップスターという肩書きすら凌駕するほど。それを証明するように、今年頭に発表された第30回読売演劇大賞で優秀女優賞を受賞。そしてこの取材日の前日には、第48回菊田一夫演劇賞の受賞が発表された。

 いまや、多くのミュージカルファンから待ち望まれる望海さんの次の舞台は、『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』。パリの夜を妖艶に彩るナイトクラブ・ムーラン・ルージュの花形スターであり、高級娼婦のサティーンを演じる。


とんでもなく素敵な作品に参加できるんだとワクワクが増した

衣装クレジット

ジャケット 238,700円、タンクトップ 58,300円、パンツ 236,500円/すべてファビアナフィリッピ(アオイ 03-3239-0341)
ネックレス 65,000円 ピアス 33,000円、パールとシルバーのリング 62,000円、シルバーリング 40,000円 ゴールドリング 39,000円/すべてブランイリス トーキョー 03−6434−0210 ※靴はスタイリスト私物

――『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』は、2001年に日本で公開された映画を基にミュージカル化した舞台。’18年にボストンでトライアル公演され、翌年にはNYブロードウェイで開幕し、トニー賞最優秀作品賞(ミュージカル部門)をはじめ10部門を受賞しています。本作への出演が決まったときは、どのように思われました?

 この作品のオーディションを受けたのは、宝塚を退団してまだ間もない頃でした。大きなオーディションに挑戦するということ自体が、自分にとっていい経験になるだろうと思って受けたのですが、やはり挑戦したからには出演してみたいという気持ちになりました。

 当時、映画は見ていましたが、ミュージカル自体は未見。それでも、これだけの大作、しかも日本初演に立ち会えるということで、出演が決まった時は素直にものすごく嬉しかったです。

――稽古が始まる前には、NYブロードウェイで実際の舞台をご覧になられたそうですが、いかがでした?

 前々から楽曲だけは聴いていて、有名な曲がたくさん使用されているので、やっぱり音楽がメインの作品なのかなと想像していたんです。でも実際に拝見したら、思ったよりお芝居の部分があって、音楽もお芝居もどっちも楽しめる作品なんだと安心しました。

 しかも舞台美術がとても豪華で、劇場に入った瞬間からムーラン・ルージュの世界観を堪能できるので、テーマパークに来たような感覚にもなり楽しかったです。そして何より、皆さんのパフォーマンスが素晴らしく、圧倒されっぱなし。この作品ひとつで、いろんな体験をしてもらえるんじゃないかと思うんです。私自身、それぐらい刺激的な体験になりましたし、こんなとんでもなく素敵なものに参加できるんだと、よりワクワクが増しました。

作品の大きなテーマにあるのは愛。演じるサティーンは愛に溢れた人

――演じられるサティーンという女性については、今、どのようにとらえていらっしゃいますか?

 映画もありますし、皆さんは結末もご存知かもしれませんが、とても強い女性だなと思います。この作品の大きなテーマに愛があるんですが、クリスチャンとの愛はもちろん、クラブを仕切るジドラーをはじめとした仲間への愛もあるし、ムーラン・ルージュを守りたいという愛も……。本当にたくさんの愛を持った人だと感じました。

 演じるにあたっては、クリスチャンと、ムーラン・ルージュのパトロンであるデューク(モンスロ公爵)との間で揺れ動くものを大事にしたいと思っています。クリエイティブスタッフも、そこの三角関係を映画よりも明確に見せたいとおっしゃっています。

 NYで観たときは、英語だったのでそこまでわからなかったのですが、日本語の台本と向き合ってみると、サティーンがものすごく苦しい立場にある人だということがわかるんです。でも、彼女自身はそれを苦とは感じていなくて、自分が何をすべきかをすごく考えていて、何を選ぶかを決断する強さをきちんと持っている。それこそが“輝くダイヤモンド”と呼び称される彼女の、内から放たれる輝きにつながっているのかなと思っています。そこをどう作品の中で構築していくかは、これから皆さんとお芝居しながら磨いていきたいですね。

――サティーンはムーラン・ルージュの花形スターです。トップスターを経験したご自身と、何か共通点を感じる部分はありますか?

 役を作るにあたって、自分の経験で使えるものがあれば使いたいなとは思うんですけれど。今となっては、そういえばトップスターだったなみたいな感覚なんですよね。あの頃の私はどうしていたんだろう。結構忘れちゃってますけど、トップだった時は、やっぱり組のことをすごく考えていたと思います。

 コロナ禍になって舞台が中止になった時にトップを務めていましたから、当時は、組を守らなきゃとか、作品を守らなきゃという気持ちがあって。その時の経験や、感じたものは、今回のサティーンにも活かせるんじゃないかとは思っています。

――サティーン役は平原綾香さんとのWキャストです。平原さんの魅力、Wキャストとして受ける刺激とはどんなものですか。またお互いに協力することもあるのでしょうか。

 キュートさとセクシーさとかっこよさと……、いろんなものを持っている方なので、今の時点で、全然違うサティーンになっています。あーや(平原さんの愛称)は、包容力というか、皆んなに対して心を開いていて、太陽のような温かい人柄の方。私もそのあーやに影響されて心を開きやすくなりました。

 愛がテーマの作品で、人を愛することのパワーを描いた物語ですので、サティーンにぴったり。稽古場であーやのサティーンを見ているのはすごく楽しいです。あーやはあーやで思い描くサティーン像があるので、こういう発想もあるんだと視野が広がりますし、そこからいただく刺激も大きいです。私も、自分のサティーン像をどう育てていくか、今、模索しているところです。

2023.06.14(水)
文=望月リサ
写真=鈴木七絵
スタイリスト=早川和美
ヘアメイク=Yuto