充実した俳優になるためにも、自分自身を大切にしていきたい

――宝塚を退団され、トップスターという肩書きを下ろしてから、自分ってこんな人だったんだと気づいたことはありますか?

 いっぱいありますよ。宝塚在団中に、自分の中の嫌いな部分っていうのは、みんなで舞台を作っていく上でかなり乗り越えてきたんですよね。トップという立場になって、みんなに支えられていることを実感する中で、自分を律していた部分があったんだと思います。

 たとえば私は、小さい頃からみんなに合わせていくのが苦手だったんです。自分はできているのに、なんで遅い人を待たなきゃいけないんだろうとか。逆に、私はまだできてないのに、周りに待たれているのがすごく嫌、自分のペースでやらせてほしいとか。でも宝塚で育ててもらって、多分そういう部分が矯正されたんですね。

 でも退団して、かつてのそういう自分を思い出して、そういえばこういう私もいたなって気づく瞬間があって、またもう1回乗り越えなきゃいけないのか、と思ったり。

――でも、それだけトップスターでいるっていうのは大変なことなんでしょうね。逆に、背負っていたものを下ろして自由になったからこその変化はありますか?

 あると思います。やっぱりトップという立場にいると、どうしたって自分のことだけではなく、組のことも考える必要があるわけです。退団して自分のことだけを考えればいい環境になって、肩の荷が降りてやはり楽になりましたよね。自分が挑戦したいことに純粋に向かっていけるわけですから。今は、やりたいことを探すことが楽しいです。

――いま、こうなりたいと目指すご自身の理想像はありますか?

 いろんな作品やいろんな役に出会って成長したいという気持ちはありますが、こうなりたいという具体的な目標のようなものってないんです。ただ、NYで舞台を見て、やっぱり自分自身が充実していることが大事だなと思ったんです。ブロードウェイの俳優さんって、もちろん舞台も大事にされているし、1回のステージにかける想いも強いですが、その前にまず自分を大事にしないとという考え方なんですね。今稽古していても、海外のクリエイティブチームに言われるのは、頑張りすぎないで欲しいということ。演じる人自身の魅力があって、その上でサティーンという魅力的なキャラクターがいるんだよ、と。

 私もそうですが、稽古で自分が持っている以上のものを身につけて、初日を迎えてもなおどんどん成長していかなければって思ってしまいます。でもそうやって走り続けている中で、自分を追い詰めてしまうこともある。もっと充実した俳優になるためにも、自分をもっと大事にしてあげないと今は思っています。

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望海風斗(のぞみ・ふうと)

神奈川県出身。2001年に宝塚音楽学校に入り、2017年には雪組トップスターに就任。2021年に退団してからは、舞台を中心に活躍。2023年、第30回読売演劇大賞で優秀女優賞受賞、第48回菊田一夫演劇賞演劇賞と高い評価を受けている。音楽トーク番組「望海風斗のサウンドイマジン」(FM-NHK、毎週日曜)に出演中。

『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』

日程:2023年6月29日(木)~8月31日(木) ※6月24~28日はプレビュー公演 
会場:日比谷・帝国劇場 
出演(各役50音順):望海風斗/平原綾香(Wキャスト)、井上芳雄/甲斐翔真(Wキャスト)、橋本さとし/松村雄基(Wキャスト)、上野哲也/上川一哉(Wキャスト)、伊礼彼方/K(Wキャスト)、中井智彦/中河内雅貴(Wキャスト)、加賀楓/藤森蓮華(Wキャスト)、菅谷真理恵/鈴木瑛美子(Wキャスト)、磯部杏莉/MARIA-E(Wキャスト)、大音智海/シュート・チェン(Wキャスト)ほか 
問い合わせ:東宝テレザーブ(03-3201-7777)
https://www.tohostage.com/moulinmusical_japan/

2023.06.14(水)
文=望月リサ
写真=鈴木七絵
スタイリスト=早川和美
ヘアメイク=Yuto