クリスチャンにとってなかなか登れない壁になれたら
――相手役のクリスチャンもWキャストで、井上芳雄さんと甲斐翔真さんが演じられます。おふたりとも共演経験がありますが、今回は恋人役ということで、新しい発見などがあれば、教えてください。
芳雄さんとは、『ガイズ&ドールズ』での共演以前から、妹さんが宝塚時代の同期だったのでお兄ちゃんとして面識もあり、男役時代に憧れていた俳優さんでもありました。だからこそ逆に、一緒にお芝居して大丈夫かなっていう不安もあったんです。でも稽古場ではクリスチャンとして存在してくださっているので、私も自然とサティーンとして対峙することができています。一緒にお芝居したり歌わせていただくのが、本当に楽しいですし。
ただ、今はまだ、気づくと芳雄さんのクリスチャンにリードしていただいているなと感じる場面が多いんです。作品の中では、クリスチャンにとってサティーンはなかなか登れない壁ですから、そこはやっぱり私がリードするくらいにならないといけないんですよ。それが今の自分の課題ですね。
甲斐翔真くんは、『ネクスト・トゥ・ノーマル』で私の息子役として共演しています。今、稽古では、私は芳雄さんと組んでお芝居することが多くて、翔真くんがあーやとお芝居しているのを見ていることが多いので、なんだか息子がすごく大きくなっちゃったみたいな気持ちで(笑)。でも、クリスチャンとして、すごくまっすぐ素直に表現されているので、すごくサティーンとして居やすいんじゃないかと感じています。
――もうひとりのお相手であるデューク役のおふたりとのお芝居はいかがですか?
まだそこまで深く絡む場面を稽古していないのでわからないんですが……。でも、デュークって、作品の中でちょっと誇張されたキャラクターとして描かれているんです。公爵としてカッコいいだけでなく、傲慢な部分もあって…そこは見ていて血が騒ぎます。そういうデュークによって、サティーンとしてノセられる部分もあり、すごく面白い役ですよね。
伊礼(彼方)さんとは、今回初めて共演するんですが、ご自分なりの世界観を持って役を作られている印象を受けます。このデュークだったら、サティーンも迷うよねって思うような、とても素敵なデュークだなと思います。
Kさんは、……私、CDを買うぐらい好きなアーティストさんなので、今こうやってミュージカルで共演させてもらえていることがびっくりです。KさんはKさんで、伊礼さんとは全然違うけれど、素敵なデューク像を作られているので、お芝居するのがすごく楽しみです。また、おふたりとも歌われるととてもいい声なんですよ。そりゃサティーンなら迷うよね、って思っています(笑)。
曲によってサティーンとして気持ちが強くなったり、もろくなったり
――映画でも使用されていますが、作中では大ヒットポップスがふんだんに散りばめられています。楽曲の印象と、歌に関して今回どんな挑戦になりそうか伺えますか。
先日、音楽監督のジャスティン(・レヴィーン)さんから、直接お話を伺うことができたのは、すごく大きかったですね。クリスチャンとサティーンという、見ている世界がまったく違うふたりが愛について歌う場面があるんですが、そこで世界的に有名なヒット曲を入れて1曲に仕上げたナンバーが歌われます。お互い全然すれ違ってるのに、気づいたらひとつの曲になっているというのが素敵だし、なぜそこにその曲を選んだのか、なぜこういうアレンジにしたのか、音楽的視点から作品にアプローチできたのはよかったです。
実際、お芝居をしていてもしっくりくるんです。曲によってサティーンとしての気持ちが強くなったり、もろくなったり、メリハリが見せられるようになっていますので、もっと歌い込んでいきたいなと思います。
ただもしかしたら、聴き覚えのある有名な楽曲が日本語で歌われることで、違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれません。でも、ストーリーを追って見ていくと、きっと腑に落ちるはずなので、そこを楽しんでもらいたいです。
――ポップスをベースとした楽曲ということで、歌い方や発声など、これまでのミュージカルとの違いはありますか?
やはりポップスということで、一般的なミュージカルの歌唱とはまたちょっと違うだろうとは思います。でも、この作品の前に『ドリーム・ガールズ』という作品をやらせていただいていて、そこでいろんな歌い方があるんだなということは学ばせていただいていたので、そこまで大きな違いは感じていません。
ただ、サティーンは強い声を必要とされる役なんですね。そういう意味では、男役の時に出してたような強い声……そのまま出すわけじゃないですが、エネルギーという部分では、男役の経験が活かされるんじゃないかと思っています。今回は、そのエネルギーを高い声でも出さなきゃいけないので、トレーニングは必要ですけどね。
それこそジャスティンが、喉は筋肉だから、何回も練習すれば筋肉がつくからと言ってくれたので、初日までに鍛えていきたいなと思っています。
2023.06.14(水)
文=望月リサ
写真=鈴木七絵
スタイリスト=早川和美
ヘアメイク=Yuto