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カラスの言葉に、ぬるま湯にいる自分がシャキッとさせられる

――望海さん自身がマリア・カラスに共鳴できる部分は、決して少なくないのではありませんか?

 台本を読んでいて、「カラスのようにこうやって言えたらスッキリするかも」と思うことはありました(笑)。カラスは本当に言いにくいことをはっきりと言っていきますが、最後にいくにつれて、どうして彼女がそういうスタンスを取るのか、すごく腑に落ちる部分があるんです。彼女がどれだけ仕事に命を懸けてきたか、誇りを持っているか。

 オペラとミュージカルは近いようで違う部分があります。でも共鳴できる部分も多いですし、あとはぬるま湯に浸かっていた部分がちょっとシャキッとするというか……カラスの言葉を聞いて「あっ」と思わせられる部分がたくさんあって。きっと、観てくださる皆さんもいろいろと頷けるポイントがあるんじゃないかと思います。

――ストレートプレイとミュージカル。歌がないことによる“不安感”のようなものはありませんか?

 例えば、お客さんの空気感がいまいち乗り切ってないようなときでも、曲が流れたら、何とかこっちのペースに巻き込めるだろうという安心感を私はいつも持っているのですが、今回はそれがないんですよね(笑)。歌うことナシにこちらのペースにどれだけ早く客席を巻き込めるかというのは、私はあまり経験がないので、そこは少し不安であり、挑戦でもあります。

――開催される劇場は世田谷パブリックシアターですし、演出は森新太郎さん。本当に初めてづくしですね!

 森さんは、読み合わせの時点でもう台本が真っ黒になるくらいセリフの音をしっかり確認されるし、すごく演劇愛の強い方だからお稽古場でも情熱の注ぎ方が熱いと聞いていたので、しっかりついていかなければと身構えていた部分もありました。

 でも実際にお会いしてみたら、ものすごく柔らかい印象の方で、しかも「僕もあまりオペラには詳しくないから、これから勉強しなきゃ」と仰っていて、少し安心しました(笑)。でもあっという間にオペラについて詳しくなっていかれてて、私は置いていかれている感じです。

 ここからどうやってマリア・カラスというものを掘り下げていくんだろうか、どんなふうに台本が真っ黒になるんだろうか、というのを想像して、お稽古がすごく楽しみです。

――世田谷パブリックシアターは“演劇の聖地”のような場所のひとつですが、そこに立つのも楽しみですか?

 観に行くことは多くありましたが、もちろんそこに立つのは初めて。ちょっとお客さんの顔が見えやすいんじゃないかと思って、ドキドキしています。

――“帝劇”とはまったく異なる表情を持つ劇場ですよね。

 帝劇に比べると、本当に客席がよく見えそうですよね。劇場の空間もイメージしながらお稽古していかないと、いざお客さんが入ったところを見たら、全部セリフが飛んじゃいそうな気がして(笑)。でも、やはり世田パブでお芝居ができるのはすごく嬉しいです。

望海風斗(のぞみ・ふうと)

1983年10月19日生まれ、神奈川県横浜市出身。2003年に宝塚歌劇団入団、同年花組に配属。2017年から雪組トップスターに就任し、三拍子揃った実力の中でも、特に歌唱力に秀でた男役として活躍。『ファントム』『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』『fff-フォルティッシッシモ-』などの代表作で主演を演じる。2021年4月11日、宝塚歌劇団を退団。同年に行われたコンサートツアー『SPERO』では全国で5万人を動員するなど、その人気はとどまるところを知らない。退団後は破竹の勢いでミュージカル界を席巻する俳優のひとりとして活躍中。今年は初のアルバム『笑顔の場所』をリリースするなど、音楽活動にも意欲的だ。代表作には『next to normal』『ガイズ&ドールズ』『イザボー』『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』などがある。

衣装クレジット

ワンピース 72,000円、タイ付きブラウス 40,000円/Alunc(03-5785-6424) ピアス 429,000円、イヤカフ 242,000円、リング 473,000円 すべてK18WG×Dia/MESSIKA(MESSIKA JAPAN 03-5946-8299) 靴 133,100円/クリスチャン ルブタン(クリスチャン ルブタン ジャパン 03-6804-2855)

舞台『マスタークラス』

2025年3月 東京・長野 4月 愛知・大阪
https://masterclass.westage.jp/

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2025.01.18(土)
文=前田美保
写真=榎本麻美