この記事の連載

「アメトーーク!」に人生を救われた浪人時代

――小山さんが手掛ける番組は、女子カルチャーの中の一種の尖ってる部分を取り上げていると思うのですが、それがど真ん中で刺さる層は狭いといえば狭いですよね。だからこそ、これまでのテレビでは光が当たってこなかった。

 そうだと思います。狭すぎるとゴールデンではやれないですし、「そんなの数字とれないでしょ」で終わるところですよね。幸い、私の場合は「これ面白いな」と思ったことを、加地さん(「アメトーーク!」などを手掛けるプロデューサー)をはじめ上司や周りの方が面白がって潰さずにいてくれる環境があったのでやれているんだと思います。企画だってもっと直されてもおかしくないんですけど、オンエアを観て感想をくれるくらいで。そういう意味で、自由にやらせてもらってます。もちろん、本当は数字とれよって話なんですけど……。

 そのあたりは会社が独特ですよね。私はもともとテレビ局に入るつもりがなかったので、テレビ局って日本企業だからガチガチのイメージがあったんですよ。でも採用面接で、そうじゃないことを知って。

――そうなんですか。他にいきたい業種が?

 とにかく就活を早く終わらせたくて(笑)、その時はスマホゲームに夢中だったので、なんとなくゲームを作りたいなと思ってて。どこにいくにしても自分がひとつの会社でひとつのことをずっとやっている未来が全然見えなかったし、何が好きかはどんどん変わっていくから、とりあえずその時に興味を持てるものだったらいいかなって。

 たまたま友達が書いていたテレ朝のエントリーシートを見せてもらったら、質問が大喜利みたいで面白かったんですよ。それでノリで一緒に受けたら、面接官がすごくいい人たちだったんです。私は大学生のときに地下アイドルをやっていたんですが、それについても否定せずに「面白いね」って言ってくれて「あ、いいな」と思いました。こういうふうに認めてくれる人や環境があるなら、「自分なんて」と思わずに面白いものをつくれるかもしれない、と。

――どこにいくにせよ、面白いものをつくりたいという気持ちは当時からあったんですね。

 誰かがどこかでつくっているコンテンツがあって、それによって救われることってあると思うんです。自分も、思い返せば浪人時代に「アメトーーク!」を観るのが唯一の楽しみで、テレビに救われていた時期がありました。人によってそれがマンガだったりアニメだったりバラバラだと思うんですけど、たまたま私の番組を観ていた人が「そういえば、あの番組よく観てたな。なんか助けられてたな」みたいになるなら、私のやりたいことはテレビでも叶えられるな、と入社しました。

――実際に今、働いていてその実感はありますか?

 チャンスをもらえて、自分で番組をつくって作品として世に出せて、それを評価してもらえたときは大きなやりがいを感じます。クリエイターの人はみんなそうだと思いますが、そこは何物にも代えがたい喜びがありますね。それと、収録の現場で自分が企画したものを題材に演者さんたちが楽しそうに話してくれているのも、すごく嬉しいです。そういう喜びがあるから、頑張れています。

「ロールモデルがいない」で終わらせず模索したい

――この連載は、今テレビ番組の制作に携わっている女性たちに話を聞くことを趣旨にしています。特にバラエティに関しては、それこそ加地さんや元テレ東の佐久間宣行さん、TBSの藤井健太郎さんなど、著名なプロデューサーがことごとく男性であることが気になっていて。

 確かに、本当に少ないですよね! 他局の方とお会いする機会はあるんですけど、バラエティのど真ん中にいる女性にはまだ会ったことがないです。

――小山さんでもそうなんですね。なぜこんなに女性のバラエティ制作者が少ないんでしょう?

 なんでなんでしょうね? うーん……テレビバラエティはずっと「男性がつくるもの」という部分があったんだとは思います。そもそも絶対数が少ないので、芸人さんの中で女性が少なくて、M-1やKOCなどの賞レースで決勝に出てくる女性が少ないというのに近いかもしれません。でも「この番組は男性が/女性がつくっているから観よう」と考えてテレビを観ることって普通はないんですよね。「面白いから観よう」であって、誰がつくっているかはわりとどうでもいいというか。私自身、特にずっと意識してなくて途中から「あれ、女性いないな」と気づきました。

 だから、どうやって自分のキャリアを描いけばいいのか、社内にモデルケースがいないんです。男性だったら「加地さんみたいになりたい」とか「佐久間さんみたいになりたい」とかありそうですが、女性の場合、結婚や出産などプライベートも希望を叶えながらどうやってこの仕事を続けていくか、目指すべき具体的な存在が身近にいない。でも、嘆くことにも疲れたというか、最近は自分がそれになっていくしかないんだなと思い始めてます。

――力強い。

 「ジャンヌ・ダルクってこういう気持ちだったのかな」みたいな(笑)。そこを課題としてひとつ与えられている世代なんだなと思ってます。「ロールモデルがいないね」で終わってしまわずに、模索していかないといけない。じゃないと、優秀で面白いことを考えられる女の子たちが「じゃあテレビはやめよう」となっちゃうと思うので。バラエティは特に、きっとこれからなんだと思います。自分より下の世代で「バラエティやりたいです」という女の子は他局にもいるので、今後増えていくんじゃないでしょうか。

――TVerや各局オリジナルの配信プラットフォームができたり、個人視聴率が調査されるようになったりして、数字の捉え方が変わってきたのは追い風になりそうですか?

 評価の指標が視聴率一辺倒だったところから、TVerや放送外のイベントなどが含まれるようになったことで守られる番組は多いですね。いい時代になってきてると思います。

 ゴールデンでやる番組はどうしても「マスにウケなきゃ」というところが強いので、そうなるとキャリアを積んだ方が多かったのかなと思うんですが、個人や若い人が観る番組も評価されるようになってくると、若手の女性でもバッターボックスに立てる機会が増えていくのかなと。私自身、自分より下の世代に観てもらいたい番組をどうしてもつくりがちなんで、ありがたい風向きですね。

――下の世代にどう思われるか、どうつないでいくかをかなり意識されてるんですね。

 入社当初は全然そんなことなかったんですが、テレビ以外の動画配信やプラットフォームが伸びている中でこの世界に入ったので、若い人たちに「テレビも意外とやるじゃん」と思われたい気持ちはありますね。たくさんの人に観てもらいながらエッジの効いたことをやるのは難しいですが、すり寄るのではなく自負を持ってやっていきたいです。

小山テリハ(おやま・てりは)

テレビ朝日番組プロデューサー・ディレクター。2016年テレビ朝日入社。アイドル、アニメ、漫画が大好き。主な担当番組は「イワクラと吉住の番組」、「ホリケンのみんなともだち」など。
Twitter:@teriha_oym

テレビ朝日「イワクラと吉住の番組」

放送時間:毎週火曜26:16~
出演者:イワクラ(蛙亭)、吉住
Twitter:@iwakurayosizumi

次の話を読む男社会でなめられたくなくて。テレ東 「生理CAMP」女性プロデューサーが 局のトイレで“ぼっち飯”をしてた頃

Column

テレビマンって呼ばないで

配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載です。

2022.10.22(土)
文=斎藤 岬
写真=平松市聖