この記事の連載

 配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載です。

 今回登場いただくのは、朝日放送テレビ(以下ABCテレビ)ディレクター・プロデューサーの児玉裕佳さん。2025年9月14日に1時間特番として復活する、視覚障害を持つピン芸人・濱田祐太郎さんの冠番組『濱田祐太郎のブラリモウドク』が生まれた背景や、テレビ局で働いていて感じるジェンダーバイアスについて伺いました。(前後篇の後篇/前篇を読む)


視覚障害のある芸人・濱田祐太郎の番組が誕生したワケ

――昨年の夏に放送されたご担当番組『濱田祐太郎のブラリモウドク』を拝見しました。視覚障害のあるピン芸人・濱田祐太郎さんが街ブラロケに挑戦する内容で、目が見えないことを存分に活かして笑いが生まれるという、これまでテレビでは観たことがない面白さがありました。この番組はどういった経緯で生まれたのでしょう?

 もともと濱田さんのネタが面白いと思っていて、一緒にお仕事してみたかったんです。なかなか機会がなかったんですが、企画書を出せるタイミングがあったので「これはチャンスだ」と。

 ただ、もともとはかなり違う内容で考えていました。いちばん最初に私がメモ書きしていた企画の走りは「画(え)のないテレビ」というもので。濱田さんがロケをして、視聴者がその感覚を追体験できるような15分真っ暗の世界を映してみたいと思ったんですよね。

 でも先輩に相談したら「さすがに意味わからんのとちゃうか」と言われたこともあり(笑)、毒っ気や自虐も含めて濱田さんの人柄を出せる街ブラにしたら面白いかと思ってあらためて企画書を書きました。

――放送時には芸人さんや業界関係者を中心に、かなり話題になりました。今年7月に日本民間放送連盟賞・テレビバラエティ番組部門の近畿地区審査で1位、さらにこの9月には1時間特番として復活と、反響が長く続いています。全4回の15分番組としては異例かと思いますが、これだけの反応を呼び起こした理由はどこにあったと思われますか?

 吉本の大阪の劇場では、以前から濱田さんいじりが結構あったんですよね。「クレーンゲームを一発で成功させた」「鏡の前でネクタイを整えていた」みたいなエピソードから、「ほんまは見えてるやろ!」って周りの芸人さんがいじってはって。

 それを私も面白いと思っていたんですけど、劇場と違って地上波のテレビは不特定多数の人に向けて作らないといけない。そうなると考査【編注:放送基準やコンプライアンスに照らし、内容に問題ないか確認する過程】の面でどうしても超えないといけないハードルがあって、二の足を踏むことが多いんだと思います。

 自分で言うのもおこがましいですけど、『ブラリモウドク』は不特定多数の人に見てもらうことを考慮した上で、劇場で生まれているような笑いを初めて地上波で映像にできたんじゃないか、と。観ている人にもそこを楽しんでもらえたのかな、と思います。

――濱田さんは以前から「障害のある人がバラエティに出るケースが少なすぎる。制作側がもっと気軽に障害者を起用して、慣れていくべきだ」とよくおっしゃっています。そうした意見に共鳴された部分もあったのでしょうか。

 SNSやYouTubeを拝見していて、そういったお考えの部分も面白いと思っていました。ただ、障害があるとかないとかではなく、純粋に濱田さんという人が面白いから「一緒にお笑いがしたい」と思ってオファーしたというのが正直なところですね。

 ちょっと話が逸れるんですが、私の祖父がめっちゃ耳が遠かったんですよ。子どもの頃は「おじいちゃんだから、そんなもんなんやろう」と思っていたんですけど、後で聞いたら戦争のときに耳を悪くしたらしくて、障害者手帳も持っていました。そういう人が身近にいて、それが私にとっては普通だった。

 祖父はパチンコがすごく好きで、「あんなうるさいところ、よう行くなぁ」って言ったら「いや、あんまりうるさないで」と返されたのが面白かったです(笑)。濱田さんに通じるものが若干あったのかもしれません。

2025.09.14(日)
文=斎藤 岬