この記事の連載

 配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載です。今回は、幅広いジャンルの番組を手がける、工藤里紗さんに話を伺いました。


食事から睡眠にいたるまで人間としての活動を見られたくなかった

――工藤さんがこれまで手がけられた番組は、ドラマ「アラサーちゃん 無修正」(2014年)、平日お昼の旅番組「昼めし旅〜あなたのご飯見せてください〜」(2014年〜)、情報バラエティ「ソレダメ! 〜あなたの常識は非常識!?〜」(2015年〜)、子供番組「シナぷしゅ」(2020年〜)などジャンルも時間帯も多岐にわたっています。最近では生理を取り上げた特番「生理CAMP」(2020年8月)も大きな話題になりました。キー局でひとりのプロデューサーがこれほどジャンルレスに制作することは珍しいことかとかと思うのですが、テレビ東京ではあまり制限がないのでしょうか?

 一応部署は分かれてるんですが、なんせ人数が少ないんです。それに、コンテンツってそんなにきっちり線引きして分けられるものでもないですよね。経済を扱うバラエティもあるし、バラエティ班にいるから思いつくドラマの企画もある。そこで企画を立てて通したら、その人が担当することになります。社風として、企画者主義みたいなところもあるかもしれないですね。

――工藤さんは2003年に入社されてます。なぜテレビ東京に入られたんですか?

 子どもの頃から映画が好きで、映像で何かを伝えることに興味がありました。就職活動の際、入社してすぐ制作の現場を経験できるところに入りたいと思って探していたら、当時のテレビ東京がクリエイティブ職と総合職で分けて採用を行っていたんですね。クリエイティブ職で入れば最初から制作の現場に入れる。それに、テレビ局って映画への出資や製作委員会への参加、コンサート事業など、いろんなエンターテインメントをやっていますよね。番組をつくるだけでなく様々な展開もできそうだと思って、入社しました。

――過去のインタビューを拝読すると、入社当初からしばらくは「なめられたらいけない」と強く思って身構えていたそうですね。

 そうですね。テレビ業界は圧が強い人が多いんですよ(笑)。男性の演出やプロデューサーは声が大きい人が多くて、しかもみんなガーッとしゃべる。会議や現場で「これ、どうなってんの!」とか、怒ってるわけじゃなくても大きい声で言われるとびっくりしちゃうじゃないですか。でもそこでモニョモニョしてしまうとさらに突っ込まれるので、何が来ても前のめりで「それは今こうなってます、こっちはこうです、これとこれはこういう理由で作業中です」みたいに話すようになっていきました。

 「隙を見せたらやられる!」と思い、新人の頃はご飯を食べたり寝たりする仕事以外の人間としての活動を見せないようにしてました。

――人間としての活動を……?

 眠っているところを見られるのが嫌だったのでトイレで寝たり、トイレでパリパリ音のしない、しっとりとした海苔のおにぎりを食べたり……。ごはんを食べる=休憩している=サボっている=弱い人と思われる、やられるんじゃないかと、自意識過剰になっていたんだと思います。怒られたり嫌なことを言われたりするとどうしても嫌な気持ちになっちゃうから、バリアを張って先回りして防止しようとしてました。「なめられたらアカン病」にかかっていたんでしょうね。

――そこから脱したきっかけはなんだったんでしょう。

 企画を通すために、人に相談するようになったところから変わっていきました。当時のテレビ東京は時期ごとに「特番に向けて企画を募集します」みたいな箱が設置されて、誰でも提出できるスタイルだったんです。企画書って、佐久間宣行(元テレビ東京社員で現在はフリーのテレビプロデューサー)さんは「受け手に伝わるラブレター」として書くことが大事と言っていますけど、要は恥ずかしいものでもあるんですよね。自分の興味が丸裸にされて面白いか面白くないか判断されるわけですから。

 1〜3年目の頃は、人に見られないようにこっそり書いて誰もいないときにプリントアウトしてホチキスで留めて募集箱にこっそり入れて走り去るようなことを繰り返してました。そしてなんの音沙汰もなくて落ち込む、という。でもあるときから、企画書が全然できてない段階で人に見せるようになったんです。

――それはなぜですか?

 ディレクターになって、自分がつないだVTR(以下、V)にダメ出しを受けるようになって、発想が変わってきた部分はあると思います。やっぱりコミュニケーションしないとダメなんですよね。企画だって相手のことを知らずに「一方的なラブレター」みたいに靴箱に投げ込んでいたら実現しない。何か言われる可能性もあるから怖いけど、テレビ東京が今どういう状況でどういうものを求めているのか、どんな言い方をするとちゃんと伝わるのか、企画を決める人と会話をするべきなんだな、とわかってきました。

2022.12.21(水)
文=斎藤 岬
写真=平松市聖