たくみなiPhone泥棒にひっかかる
ホーチミン市内へ戻ったとき、時刻はすでに午後3時。朝から何も食べていないうえに、雨に打たれて身体はすっかり冷えきっている。まずは温かなフォー(米粉麺)を食べてほっと一息。一刻も早くホテルへ帰ってお風呂で温まろうと、目の前に停車していたタクシーに乗った。まさか、これが事件の始まりになるとは知らずに……。
行き先にホテル名を告げ、OKと言ったはずのドライバーは、どういうわけか、なにかと理由をつけてホテルの前には停車しようとしない。メーターが表示する金額以上のお金を渡しても、「違う、違う」と申し訳なさそうに手を振るだけで、一切受け取ろうとしない。ベトナムの通貨ドンはやたらとゼロが多いし(100円は約20,000ドン)、こちらが何か勘違いしているのではという気になり、だんだんと焦ってくる。
すったもんだしているうちに、「携帯電話を持ってるか? 電卓を使いたいから貸して欲しい」とドライバーが言う。なんのためらいもなくiPhoneを渡すと、ようやく釣りの計算が済み、乗車賃問題は解決。「ここは停車できないから早く降りて!」と大声をあげたドライバーにせかされるように、タクシーを降りてしまった。
降りた瞬間、まだiPhoneを受け取っていないことに気づいたけれども時すでに遅し。私が乗ったのは、認可タクシーによく似た白タクだったのだ。寒さで震えていたところに美味しいフォーを食べてほっとしてしまったというのもある。以前に、ほかのアジアの街で英語が通じないドライバーをぼったくりと疑い、申し訳ない思いをした苦い経験もある。うっかりといえばそれまでだが、私はまんまとiPhone泥棒にまであってしまったのだ。
盗られたものは戻るまい。でも、とりあえずは警察に行かなければ。ホテルのスタッフに事情を説明すると、二つ返事で「警察まで一緒に行きましょう」と言ってくれた。
2014.12.02(火)
文・撮影=芹澤和美