iPhoneは失ったけれど、得たものはたくさん

 翌日、チェックアウトの準備をしていると、昨晩付き添ってくれたホテルのスタッフが、非番にもかかわらず、挨拶に来てくれた。「大変だったでしょう。こんなことがあっても、ホーチミンはいいところなんだ。郊外に行けば、空気もきれいだよ。また家族や友人といらっしゃい」。私はホテルに感謝し、コンシェルジュである彼に、心からお礼を述べた。

風邪をひいていたにも関わらず、嫌な顔ひとつせず夜遅くまでつきあってくれたのは、ホテルのコンシェルジュ。5つ星ホテル並みのホスピタリティーに感謝。

 彼をはじめ、ホーチミンの人は、一見クールだが、はにかみ屋で優しい人が多いように思う。信号のない横断歩道で、途切れなくやって来るバイクに圧倒され立ちすくんでいたときのこと。「俺についてこい」と言うジェスチャーとともに向こう側まで誘導し、「あばよ」と立ち去っていったくわえタバコのおじさんもいた。

ベンタイン市場、コーヒー専門店の店員(左)と、メコン川クルーズのガイドさん(右)。ホーチミンの人は笑顔がキュート!

 ホーチミンの旅では、買ってまもないiPhoneを失った。それはけっして安価なものではないが、お金を払えば手に入るもの。私はそれ以上に貴重な経験をし(勉強も含め)、金銭には替えられないプライスレスな時間を、この旅で過ごしたのだと思う。短い滞在だったが、2度目のホーチミンは、初回の旅よりも強く心に刻まれている。

言葉が分からなくても、人が優しくてご飯がおいしい街は、旅人の心を惹きつける。

芹澤和美 (せりざわ かずみ)
アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト http://www.serizawa.cn

Column

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2014.12.02(火)
文・撮影=芹澤和美