現場検証に聞き込み調査。展開はダイナミックに

 向かった警察は、街中の、ちょっと大きめの交番のようなところ。自分で届け出ていながら言うのもおかしいが、たかだか携帯電話ひとつのこと。ここでは、簡単な調書をとって終わるのだろうと考えていた。だが、着いてそうそう、おまわりさんが言った言葉は、「事件現場に行きましょう!」。

 向かったのは、私がタクシーを降りた場所。「この交差点で降りて、タクシーはあっちのほうに走り去り、私は走って追いかけて……」と、しばし、再現ドラマ風に、事件をふり返る。私はベトナム語がまったく分からないので、その間、ホテルのスタッフがずっと付き添い、通訳をしてくれた。

タクシーを降りた“犯行現場”で現場検証。

 タクシー降車地点のすぐ隣には公園があって、ご近所らしき人たちが、トランプに興じていた。そんなのどかな場所でも、おまわりさんは果敢に聞き込み調査。「ここで怪しい白タクを見なかったか?」「本日夕方、日本人がここでタクシーを降りたのを見なかったか?」。聞けばベトナムでは、携帯電話ひとつでも、窃盗はこうして現場検証をするのだという。

その場にいたご近所さんにも、聞き込み調査。

 その後、再び交番へ戻り、こんどは事情聴取。犯人の体格、肌の色、顔つき、などなど、ホテルスタッフの通訳を介しながら、細かく伝えなければならない。てっとり早く犯人の似顔絵を描いてもみたのだが、どうやらその絵がかなり下手くそだったようで、居合わせたおまわりさん全員に苦笑いされてしまった。

非番らしきおまわりさんがギターを奏で、野良猫が自由に中を闊歩する交番。なんとものどかな雰囲気。
私が書いたレポートは、ホテルスタッフがすべてベトナム語に翻訳。なかなか根気のいる作業だったはず。

 事情聴取の後は、ポリスレポートの作成。いつ、どこで、どんな状況で被害にあったのかを詳しく書くと、それをホテルスタッフがベトナム語に訳してくれる。時間は22時。かんたんな調書一枚を書くぐらいのつもりで訪れたベトナム警察は、現場検証からレポート作成まで、4時間もかけて、しっかりとiPhone盗難事件に向き合ってくれた。

2014.12.02(火)
文・撮影=芹澤和美