世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、週替わりで登板します。

 第62回は、ホーチミンでまさかのiPhoneの盗難被害に遭った芹澤和美さんが、その一部始終を綴ります。

素朴な街並みが残る、美しいホーチミンへ

のどかな村の雑貨店。ホーチミンの郊外には、こんな素朴な風景が、まだ残っている。

 短期間で目覚しい発展を遂げたアジアの都市を久しぶりに旅するときは、その変貌ぶりに驚かされ、ときに戸惑いさえ覚えてしまうもの。この秋、13年ぶりに訪れたベトナム最大の街ホーチミンも、内心ドキドキしながらの再訪だった。フレンチコロニアル様式の建物が並ぶ美しい街並みは、どんなふうに様変わりしているのだろうかと。

大河のように流れるバイクの波。その後ろには、近年できた高層ビルが。

 果たして、久々に見たホーチミンは、高層ビルは増えてはいるものの、バイクの多さも、交通渋滞も、相変わらず。マカオの埋立地や上海のような、「腰を抜かすほどの大変貌」もない。妙にほっとした気持ちで、市内散策へと出かけた。

 ベンタイン市場は、ホーチミンの人気観光地。屋根つきのマーケットの中には、雑貨店や食料品店、ベトナム名物のコーヒー専門店が軒を連ねている。ここはどの店も、商品に値札をつけていない。ついていたとしても、かなりふっかけている。交渉すれば、さして苦労することなく半額以下になるから、つい買いすぎてしまう。女性にはおすすめのスポットでもある。

ベンタイン市場の中には、ベトナムコーヒーやお茶など専門店のほか、食堂まである。

 市内から車で2時間ほどのミトーを基点にしたメコン川クルーズも、定番観光。全長約4000キロにわたる悠久の大河メコンにある中洲の島や川沿いの村を訪れる、というのが一般的なツアーコースだ。蜂蜜農園でハニーティーを飲んだり、採れたての南国フルーツを食べたり、ヤシの葉葺きの屋根の下で民族音楽を聴いたり、大都会ホーチミンとは違った田舎の風景を見ることができる。

メコン川クルーズで立ち寄る島や村は、時間の流れもゆったり。

 メコン川クルーズのハイライトは、クルーズ船から小さな手漕ぎボートに乗り換えての支流クルーズだ。私も手漕ぎボートでいざ、ミニクルーズへ。両岸にニッパヤシがうっそうと生い茂るジャングルを、小さな船は軽快に進んでゆく。が、漕ぎ始めてほどなくして、激しい雷雨が。途中で引き返すわけにも行かず、全身びしょ濡れになって、ホーチミンへと戻ることになった。

ベトナムの藁帽子「ノンラー」をかぶって、激しく降る雨の中を、手漕ぎボートでクルーズ。

2014.12.02(火)
文・撮影=芹澤和美