記憶を失った医大生役を好演した『幻肢』

――その後、映像作品にも出演されますが、そのときの心境を教えてください。

 舞台は楽しかったので、舞台だけをやっていたときは映像への憧れみたいなものは持っていなかったのですけど、周りのいろんな方から「映像も経験した方がいい」というお話を聞くうちに、興味がわいてきました。舞台のときは、自分の演技を客観的に見ることがほとんどなかったのですが、自主製作映画に出演させていただいたときに、編集や音響などによって、自分が演じながら想像していたものから、はるかに超える作品になっていくことに新鮮な驚きがありました。舞台は、稽古を積むことによって、ある程度は完成型を想像できていないといけないものなので、その点で映像と舞台の違いを感じました。

――今回、初主演を務められた『幻肢』ですが、どのような経緯で主演に抜擢されたのでしょうか?

 最初、知り合いのプロデューサーの方から「今度、吉木くん主演で映画を作りたい」という連絡をいただいたんです。そのときには、こんな大きなプロジェクトになるとは思っていませんでしたが、話をいただいてから3カ月のあいだに、島田荘司先生の書き下ろし作だとか、共演が谷村美月さんだとか、どんどん大きな話が決まっていったので、正直戸惑いはありました。

――記憶を失った雅人を演じるうえでの役作りについては?

 雅人は医大生の役柄なので、劇中に出てくるたくさんの専門的な医学用語をスラスラ言えるようにならなきゃいけなかったんです。とくに、雅人が“幻肢”について熱く語るシーンがあるんですが、そこで(恋人になる)遥をときめかせるので、言葉に詰まっていてはダメだ、と監督にも何度も言われました。専門用語も自然に言えるようにすること、そして、楽しい過去と深刻な現在、その表情の違いを出すことを意識していました。

2014.11.07(金)
文=くれい響
撮影=中井菜央