この記事の連載

 鎌倉で旦那さんと暮らしながら、ハワイや沖縄、もちろん東京でも料理の本を作ったり、取材をしたり。料理編集者・赤澤かおりさんは、どんなに忙しくても元気いっぱいなのです。

 忙しい毎日のなかで、ほっとするのはやっぱり、地元・鎌倉に戻って、もしくはおうちで目一杯働いて、お酒を飲む時間。基本的に前々から予約をとるよりも、その日のお腹に聞いて食べたいものと飲みたいものを求めて出かけます。

 ふっと時間が空いたとき、ひとりでふらりと出かけた鎌倉で、女性ひとりでお酒を楽しむなら? 今回は鎌倉駅から横須賀線で2駅の「大船」。ラストは予約して行きたい素敵な焼鳥店です。


“串は骨”。備長炭で魂込めて焼かれた焼鳥

 初めてここを訪れたのは確か8年ほど前。おいしいものをよく知る近所の酒屋さんご夫妻に連れてきていただいたときでした。一歩進むごとに「安いよ、うまいよ、今だけだよ」と威勢のいい声がかかる商店街を1本脇に逸れた雑居ビルの2階、スナックなどが軒を連ねるそこに「焼鳥 こばし」は、ひっそりと佇んでいました。

 細長く、人が一人後ろを通るのがやっとな店内は、入った瞬間から炭火で焼いた鶏のいい香りが充満していて、その匂いだけで呑めるなと思ったことを思い出します。そのとき店主である小橋武史さんにいただいた“串は骨”と記された名刺に、おいしいだけならず、一本筋が通った仕事をなさっているのだなと感じました。

 それから程なくして近所の、これまた雑居ビルに移転。今度は広々とした店内。窓もあり、チラリと大船の街並みもうかがえます。そんなここへたどり着くのはなかなか大変で、初めての方はたいてい迷われます。待ち合わせをすると、必ず「今どこ?」となるんです。

 理由は、お店の入口に辿り着くまでに、ビルの入り口が3つあるからというのと、細い裏道2本に挟まれているから意外とぐるぐる迷路のようになりがち!? というところでしょうか? なぜだか皆迷うんです。

 そんなたどり着くまでのやり取りもなんだか楽しい焼鳥屋さん。最初に訪れたとき、とにかく衝撃だったのは、焼鳥というものが、こんなにもおいしいものだったということ。本当のおいしさを知ってしまったようで、そこからずっと私はここでしか焼鳥を食べていません。

2024.12.09(月)
文=赤澤かおり
写真=榎本麻美