この記事の連載

 鎌倉で旦那さんと暮らしながら、ハワイや沖縄、もちろん東京でも料理の本を作ったり、取材をしたり。料理編集者・赤澤かおりさんは、どんなに忙しくても元気いっぱいなのです。

 忙しい毎日のなかで、ほっとするのはやっぱり、地元・鎌倉に戻って、もしくはおうちで目一杯働いて、お酒を飲む時間。基本的に前々から予約をとるよりも、その日のお腹に訊いて食べたいものと飲みたいものを求めて出かけます。

 ふっと時間が空いたとき、ひとりでふらりと出かけた鎌倉で、女性ひとりでお酒を楽しむなら? 今回は鶴岡八幡宮の近くへ……。


ここにしかない味がある!

 イタリアンとひと口に言っても当たり前ですが、お店によってさまざま。北の地方がメインのところもあれば、真逆の南もあるし、はたまたその間の真ん中辺りの地方というのもあります。もちろん、地方によることなく、全域を自由自在に行ったり来たりできる料理を出しているところも。それとはまったく別で、日本の食文化が生んできたイタリアンというのもあります。個人的にはどの地方が好きということはなく、それぞれにお店のカラーがある方が好みです。

 鎌倉駅から徒歩10分強。段葛を通り、鶴岡八幡宮脇を少々行った先にあるイタリアン「piu forte(ピユ フォルテ)」は、イタリアはイタリアでもそれぞれの地方の郷土料理の特色が色濃く反映され、味わえる鎌倉で唯一無二の場所。

 オープンは今から10年前。私は、ソムリエであり、フロアを担当する霜下祐太さんが友人のお店を手伝っている頃から知っているので、お世話になって早15年近くが経ちます。厨房を仕切り、料理を担当するのは奥様の絵梨さん。美人で華奢な絵梨さんだけれど、料理は男勝りで大胆かつ豪快。その料理に対し、繊細にワインを合わせてくるのが旦那様の祐太さんというおふたり。

 祐太さんは10代後半から20代前半くらいまでトルコ、イタリアなどを転々としながら、ヨーロッパで3年半ほど働いていたのだそう。今、イタリア料理を仕事にしているのは、そのときイタリア人やイタリア系の友人が多く、皆、人がよかったことと、ヨーロッパでご自身が体験してきたこと、その文化に深く興味を持ったことが大きいと祐太さん。

 また、その友人たちが料理を作ってくれたことも多々あり、なかでもローマ出身の人が作ってくれたレモンのパスタが最高だったと当時を振り返りながら話してくれました。しかもその翌日は、パスタに使ったレモンでリゾットも作ってくれたんだとか。

 そんな祐太さんと絵梨さんは夫婦揃ってイタリアを何度も旅しては、各地の郷土料理を食べ歩き、文化を学び、自分たちの料理に投影してきました。昨年は3カ月間、絵梨さんが単身イタリアへ。ひとりで食べ歩きながら、さまざまな料理を味わい、新たな舌の学びをしてきたばかり。

 そんなふたりが切り盛りするお店に伺うとき私は、だいたいのことをお任せにしています。ワインも、料理も。なぜならそれが一番正解だから。そしてそれらの説明を聞くのが何より楽しいから。

 特にふたりがイタリアから帰ってきた後は、新たな学びが料理に、ワインに、どんどん打ち出されてくるのでとにかく勢いがあって、おもしろい。イタリアの郷土料理といっても、それぞれの地方料理というだけにとどまらず、話は古代に遡るときもあり、今ではなかなか現地でも食べられないような料理まで出てくることもあれば、ひとりで行ってもとにかく飽きることがないのです。だから、次はどんな料理とワインが出てくるのかなぁと、いつもワクワク。

2025.04.12(土)
文=赤澤かおり
写真=榎本麻美