この記事の連載

 鎌倉で旦那さんと暮らしながら、ハワイや沖縄、もちろん東京でも料理の本を作ったり、取材をしたり。料理編集者・赤澤かおりさんは、どんなに忙しくても元気いっぱいなのです。

 忙しい毎日のなかで、ほっとするのはやっぱり、地元・鎌倉に戻って、もしくはおうちで目一杯働いて、お酒を飲む時間。基本的に前々から予約をとるよりも、その日のお腹に訊いて食べたいものと飲みたいものを求めて出かけます。

 ふっと時間が空いたとき、ひとりでふらりと出かけた鎌倉で、女性ひとりでお酒を楽しむなら? 今回は鎌倉で食べる、ひとりに優しいイタリアンをご紹介します。まずは女性店主が営む御成の小さなお店へ。


御成にある“人間交差点”的なバ-ル

 春爛漫。暖かくなってきたので久しぶりにひとり飲みに出かけてきました。鎌倉って、なぜかしらイタリアンのお店がとっても多い街なんです。今回は、そんな鎌倉のイタリアでひとり飲みしてきました。

 どこの街にも人間交差点的なお店ってあるんじゃないでしょうか!? 鎌倉駅からすぐの小路を入ったところにある「Vicolo(ヴィコロ)」は、たいてい近所の誰かがカウンターでお茶しながら、おしゃべりを楽しんでいるところに出くわす、そんなところ。

 隠れ家のようなここにお店をオープンして9年。以前は鎌倉駅の東口にあった、古い小屋で立ち飲みのお店をしていました。その当時、オープンは昼のみ。なんと夜は別のイタリアンのお店で働き(家賃を稼がないと~! と思っていたのだそうです)、昼は自分のお店を営業していたというわけ。

 そんな頑張り屋さんのオーナーシェフの村木真智子さんは、イタリアのボローニャで7年間働いたのち、帰国。その後、友人のお店を手伝う傍ら、自らのお店もやりながらの数年を過ごし、現在の鎌倉駅西口から徒歩3分のお店をオープンするに至ります。そもそも、イタリアに行ったきっかけは大学を卒業後に、北海道の牧場内のジェラート屋さんで働いていたときにイタリアに研修に行き、水が合ったというのか、そんな感じでイタリアへ渡ったのだそう。

 実は今まで、なんとなくは知っていたけれど、そこまで突っ込んで話すことがなかった真智子さんの人生を改めて伺うと「人生何があるかわからないですよねー」と、真智子さん。わりと壮大な日々を過ごしてきたにもかかわらず、他人事のようにのんびりとした返事にガクッとなりますが、それが真智子さんなのです。

 誰にでも優しく、ゆるっとした返しでみんなを和ませてくれる人。それが真智子さん。聞いてるのか、聞いてないのかわからないくらいの立ち位置でいながら、肝心なときには「そうそう」とナイス合いの手! な人。

 だからなのか、ここへは、同業者が朝の市場での仕入れ帰りやアイドルタイムにお茶しに来るということがよくあり、私も何度もその現場に遭遇してきました。皆、何を話しているのかわからないけれど、クスクスと笑って、エスプレッソをクイッと飲んでは数分で「そんじゃ、また!」「今日も頑張ってね」てな感じに去っていく。

 そんな様子を横目に私はまぁまぁ長っちりで飲んできました。

2025.04.11(金)
文=赤澤かおり
写真=榎本麻美