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全国でも数少ない「のぼれる灯台」

 早川さんのあとについて灯台のあしもとまでたどりつくと、そこには海上保安庁・千葉海上保安部の古庄秀行(ふるしょうひでゆき)さんが待っていた。

 テレビカメラの回る前で挨拶を交わす。気の毒なくらいカチンコチンに緊張している古庄さんに、思わずシンパシーを抱いてしまう。

 物知らずのムラヤマ、全国の灯台を管理しているのが海上保安庁であるということも初めて知ったのだったが、今回その海上保安庁さんが立ち会って下さったのには理由があった。

 この野島埼灯台、全国でも数少ない「のぼれる灯台」のひとつで、一般観光客は三百円の寄付金を納めれば、灯台にものぼれるし、併設の資料館も見学できる。

 ただし立ち入りが許されているのは上から三分の一くらいのところにある展望台までで、さらにその上の、光源とレンズが収められたガラス張りの空間にまでは入ることができない。海上保安庁の係官でさえ、メンテナンスが必要な時以外は立ち入らない場所なのだ。

 そのレンズ室に、今回は古庄さん立会のもと、特別にのぼらせてもらえることになったわけだ。役得もここに極まれり、である。

 まずは、太い柱のまわりをぐるぐると回るかたちで螺旋階段をのぼってゆく。

「カタツムリとかサザエの殻の中みたいですね」

 言ってから、そういえばサザエは漢字で書くと「栄螺」だと気づいた。螺旋の「螺」の字は、巻き貝を意味するのか。「法螺貝(ほらがい)」も「螺鈿(らでん)」もそうだ。いやはや、言葉ってほんとに面白い。

 展望台までの七十七段なんかチョロいと思っていたのにそうでもなくて、情けない感じに息が切れてしまった。

 しかも、ここからは非常に狭い鉄製の階段がのびており、さらに上の梯子(はしご)へと続いている。人一人がようやく通れる程度のその梯子段の上に、灯台の心臓部であるレンズと光源が収められているようだ。

 なるほどこういうことかと思った。番組のディレクターさんから前もって、

「スカートとかじゃなく、動きやすい格好で来て下さい」

 そう言われていた意味がやっとわかった。

 まあ、よい。かえって血がたぎる。

 勇んで梯子段の手すりをつかもうとしたら、目の前にスッと、軍手とともに白いヘルメットが差し出された。サイド部分に「海上保安庁」と大書され、おでこの位置には、羅針盤を図案化したコンパスのマークまで入っている。

「え、いいですよう」

 照れくささに笑って辞退したのだが、

「いえ、決まりでして」

 古庄さんがあんまり申し訳なさそうにおっしゃるので、ありがたくかぶり、顎(あご)の下でベルトを締めた。ちょっとだけコスプレ気分で敬礼したくなる。

2024.10.20(日)
文=村山由佳
写真=橋本 篤
出典=「オール讀物」2024年9・10月特大号