この記事の連載
- 中村隼人インタビュー前篇
- 中村隼人インタビュー後篇
現在、歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」に出演中の中村隼人さん。
昼の部では古代インドの叙事詩をベースに2017年に新作歌舞伎として上演された『マハーバーラタ戦記』、夜の部は忠臣蔵外伝として有名な作品『松浦の太鼓』で、異なる役どころを演じています。
来たる2024年1月には「新春浅草歌舞伎」での大役が控え、2月からはスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』に主演。歌舞伎俳優として目が離せない隼人さんの今に迫ります。
人気作品が再演! 『マハーバーラタ戦記』
――『マハーバーラタ戦記』は尾上菊之助さん主導で実現した新作歌舞伎。隼人さんは坂東巳之助さんとダブル主演された『NARUTOーナルトー』など、新作にも多く携わっていますが、こうした形で再演から参加するのはあまりなかったですよね?
言われてみればそうですね。ただ自分ひとりが新しく入ったわけではなく、初演メンバーでも前回と違う役をなさっている方もいらっしゃいますし、特に入りにくいことはありませんでした。この作品を企画された(尾上)菊之助兄さんが、気にかけてくださっているのでそれは大きいと思います。
――隼人さんが演じている阿龍樹雷(あるじゅら)は象の国の五人の王子のひとり。菊之助さん演じる主人公・迦楼奈(かるな)に拮抗する役どころです。どんな思いで取り組んでいますか?
迦楼奈は非常に純粋でまっすぐないい人として描かれているので、対立する五王子の芝居としての立ち位置は悪であるべき。迦楼奈目線でご覧になっているお客様には、血筋ばかりを重んじる頭の硬い、嫌な集団に見えた方がいいのだろう、とまず思いました。
――五王子が横一列に並んで名のる場面はいかにも歌舞伎らしく、阿龍樹雷のたたずまいには、悪役の中でも悪の中心的存在の役どころである〝実悪〟の雰囲気がありますね。
五人それぞれのキャラが立っているので個々のカラーが出るように、最初の登場としてそこは意識しました。阿龍樹雷が着ているのは『毛抜』の(敵役である家老の八剣)玄蕃のような衣裳なんです。歌舞伎って衣裳や鬘が決まると顔の色、つまり化粧も決まって、この拵えの役なら声のトーンはこんな感じ、というように役を組み立てていけるんです。
――役づくりのシステムが構築されているのですね。
新たな役に出会うたびに先人の知恵、培ってきたもののすごさを実感します。
――インパクトある登場シーンから次第に翳りある風情を見せていたのが印象的なのですが、そこも意識されました?
多少はしています。五王子の中で父親が誰かということが、お客様にはっきりわかるのは阿龍樹雷だけ。ある使命を背負って生まれているわけですから、他の兄弟がワイワイしている時でもちょっと違う雰囲気でいようとか、そのバランスは考えています。
2023.11.25(土)
文=清水まり