7回目となる尾上右近さんの自主公演「研の會」が、浅草公会堂でまもなく開催されます。演目は『夏祭浪花鑑』と『京鹿子娘道成寺』、それぞれの見どころと記者会見などで語られた右近さんの「研の會」に対する思いに迫ります。

『夏祭』から広がる新しい景色

 「男らしくて泥臭い、まっすぐな浪花の男」である主人公・団七九郎兵衛に魅力を感じるという『夏祭浪花鑑』は、大坂の侠客の生き様が庶民の風俗とともに鮮やかに描かれた作品。義兄弟の契りを結ぶことになる一寸徳兵衛との男の達引、やむを得ず舅の義平次を手にかけてしまう緊迫感あふれる場面で見せるいくつもの見得など、歌舞伎の様式美がたっぷりと堪能できます。

 右近さんはさらにもう一役、徳兵衛の女房であるお辰も演じるのですが、このお辰がまた魅力的な女性なのです。詳細には踏み込みませんが、あっと驚く行動に出る心意気があまりにもオトコマエ! 透け感のある素敵な夏コーデ姿から香り立つ色気に注目です。

 『夏祭』は「この方にやっていただけたらと思う俳優さんがパチっとはまらないとできないような演目」と語る右近さん。団七が日頃から頼りにしている老侠客の釣船三婦を何度もこの役を手がけている大先輩の中村鴈治郎さんが演じるほか、右近さんと厚い信頼関係で結ばれた俳優さんの出演が適材適所で実現しました。

 異色なのは徳兵衛を演じる坂東巳之助さんが、年配の俳優さんが演じることが常の義平次との二役で出演することです。

「『夏祭』をやりたいと思う中でかなりのパーセンテージで徳兵衛と義平次を巳之助さんにお願いしたいという気持ちがありました。歌舞伎界で新しい景色を一緒に見て行こうと誓っている仲間だからこそ頼めたことであり、引き受けていただけたと思っています」

 団七女房お梶を中村米吉さん、団七の運命の行方の鍵を握る若いカップルを中村種之助さん、中村莟玉さんが演じる同世代が顔を揃える舞台です。

 立役も女方も手がける右近さんは『夏祭』でお辰を演じる理由のひとつとして「女方に対する愛情」を挙げました。そして「女方舞踊の中でも最高峰と言われる舞踊作品」が『京鹿子娘道成寺』です。

 紀州・道成寺に伝わる伝説をベースとするこの踊りは、あどけない娘から恋に思い悩む大人の女性、果ては人ならざる者まで、揺れ動く女ごころをさまざまなアプローチで魅せてくれます。

2023.08.01(火)
文=清水まり
舞台写真=©研の會
撮影=田口真佐美