“解説”でしか見られない舞台機構

 学生時代に国立劇場の「歌舞伎鑑賞教室」をご覧になった経験はありませんか? 学校行事の一環としてだけでなく、この公演は学生に限らず個人でチケットを購入して鑑賞できることをご存じでしょうか?

 そこで今回は、リーズナブルなチケット代で解説つき、華やかな演目でトータル上演時間は休憩を入れて1時間40分という歌舞伎初心者におすすめの公演「6月歌舞伎鑑賞教室」をクローズアップします。解説と『日本振袖始』で素戔嗚尊を演じている中村虎之介さんのインタビューを、上演中の公演の様子と共にお届けします。

 虎之介さんが「歌舞伎鑑賞教室」の解説「歌舞伎のみかた」に、中村隼人さんをサポートする形で初めて登場したのは2013年、客席の学生と同世代の15歳でした。翌年にはひとりで担当し2019年に続き今回で4回目となります。

「自分と同年代の人にどうすれば歌舞伎に興味を持ってもらえるのかを考えるところからのスタートでした。オープニングの音楽や照明を工夫したり洋服で登場したり、ある場所からお化けの姿で登場したり、解説もエンターテインメントとして楽しんでいただけるものにしたいという思いで取り組んできました」

 実は虎之介さん自身も歌舞伎にあまり興味を持てない時期があったのだとか。その経験を生かし、観客と同じ目線に下りての解説は親しみやすくわかりやすいと好評です。さて今回はどのような展開となっているのでしょうか。

「過去の経験をもとにあらゆることを詰め込みました。国立劇場のスタッフの皆さんのおかげで、照明や舞台機構など歌舞伎演出を支える仕組みの素晴らしさを体感していただける内容になっています。国立劇場には17ものせり(舞台上の昇降装置)があるのですが、それらすべてを目にする機会は芝居を上演している舞台ではあり得ません」

 実際に公演が行われる劇場内に足を踏み入れてみると、歌舞伎という勘亭流の文字が大きく映し出された紗幕の向こうにせりらしきものが透けて見えます。

 やがて場内が暗くなり……。なるほど! 伝統芸能だと思ってかしこまって構えていると意表をつくオープニングです。カジュアルなファッションで登場した虎之介さんは、親しみやすい口調と実演で、歌舞伎鑑賞に重要な要素をテキパキと解説。左右の電光掲示板には進行に合わせてタイミングよくキーワードが表示されるので、スイスイと頭にインプットされていきます。

 ツケといわれる音響効果を見得の実演を工夫することでより実感しやすくしたり、トークの流れの中に立廻りをタイミングよく盛り込んだりテンポよく進行していきます。アシスタントの中村祥馬さんとのかけあいも楽しく、飽きさせない展開です。

2023.06.14(水)
文=清水まり
写真=佐藤亘