間違い探しのように楽しむ!? 令和の「花形歌舞伎」

 中村壱太郎さんを中心に3年目を迎えた南座「三月花形歌舞伎」が、舞台だけでなく公演まるごと、かなり楽しいことになっています。

 開幕前に「テーマは平成世代の『忠臣蔵』。そして南座をテーマパークのように楽しんでいただきたい」と意気揚々と語っていた壱太郎さん。その熱い思いが劇場の外にまで波及している現実は、令和の「花形歌舞伎」がみごとに花開いたことを実感させています。

 要となる演目は古典の名作『仮名手本忠臣蔵 五、六段目』。赤穂義士の討入り事件を題材にしたとても長い物語の一部で、主人公は早野勘平という人物です。その内容を現代に置き換えるなら「会社の一大事に社長の側近でありながらミスをしていたたまれなくなり、恋人の実家に居候している人物」(壱太郎さん)に起こった悲劇です。

 勘平の恋人がおかるで、ふたりが身を寄せているのは、おかるの父・与市兵衛の家です。ミスを取り返すため勘平にはお金が必要で、そのためにおかると両親は勘平の知らないところである決断をしていました。それは廓におかるが身を売ってお金を捻出すること。

 ある夜、いくつもの予期せぬ出来事が重なります。それはまず、勘平がかつての同僚である千崎弥五郎に偶然、出会ってしまうこと。別の場所では身売金を手にした与市兵衛が、斧定九郎という人物に殺されお金を奪われてしまうこと。その定九郎が猟師の打った鉄砲の玉に当たり死んでしまうこと。そして猟師となって生計を立てている勘平が猪と間違えて人間を撃ってしまうこと……。

 五段目で起こったこれらの伏線が回収されていくのが六段目で、次第にスリリングな展開となっていくのです。そこに恋人たちの切ない別れや、不義理をしてしまった主君に対する武士としての思いなどが描かれ、勘平のエモーションは例えようもないほど乱れまくることに。

 それをどう表現するかになりますが、東西それぞれの地域に伝わるやり方があり、この公演ではその両方を観ることができるのです。いくつかの役がダブルキャストとなっている中、主役の勘平はAプロが壱太郎さんで上方、Bプロが尾上右近さんで江戸のやり方となっています。

 「どちらが正解ということではなく解釈の違いが役へのアプローチに表れています。演技だけでなく大道具や衣裳などさまざまなところがAプロBプロで異なっていますので、間違い探しのように楽しんでほしいですね」と、壱太郎さん。個々の演じ手がどのような思いで役に取り組んでいるかは、他の演劇同様に公演パンフレット(番附)に記されていますが、それだけではないのです。

2023.03.16(木)
文=清水まり