2カ月連続となる十三代目市川團十郎白猿襲名披露公演が歌舞伎座で開催中です。「なりたやっ!」、歌舞伎座に響く大向うさんのかけ声。劇場正面に踊る「満員御礼」の懸垂幕。さまざまな条件つきではあるものの、劇場はかつての華やぎを取り戻しつつあります。

 その一方、新型コロナウィルスの感染状況はまだまだ予断を許しません。そんな中で迎えた襲名披露公演の中から、昼の部で上演中の『勧進帳』をピックアップしたいと思います。


一度は観ておきたい『勧進帳』

 『勧進帳』は成田屋、つまり市川團十郎家の“家の芸”「歌舞伎十八番」の中でも上演頻度が高く人気の演目ですから、この後も目にする機会は多いことと思います。それだけに一度は観ておきたい作品ともいえるでしょう。

 物語の舞台となるのは、現在の石川県にある安宅の関(あたかのせき)。実の兄・頼朝に追われる身となった源義経は、武蔵坊弁慶と四天王と称される亀井六郎、片岡八郎、駿河次郎、常陸坊海尊をお供に、山伏姿に身をやつしてここまで落ち延びてきました。

 指名手配済みの義経主従一行を待ち受けているのは関守の富樫。この関をいかに通過するかが最大の問題で、そこで類まれなる機転と胆力を見せるのが弁慶なのです。

 弁慶を勤めているのはこれが十三代目としてのスタートとなった團十郎さん。弁慶と対峙する富樫に松本幸四郎さん、義経に市川猿之助さんという、同世代による配役です。

 公演を前にして行われた取材会で團十郎さんは、弁慶を勤める上で最も大切なのは「義経を守る心」と語っています。

「弁慶という武勇に長けた男が、若く優秀な武将である義経に惚れ込み、命がけで守る。それがこの作品の絶対的なベースです。義経を守る心。それは技芸で補えるものではなく、どんなに上手かろうとその心を忘れたら弁慶でなくなってしまいます」

 その思いは四天王も同じこと。ここで重要なのは“思い”だけでは危機は乗り越えられないということです。あまりの厳重な警備に亀井たちは力づくでも関を通過する覚悟ですが、思慮深い弁慶はそれを押しとどめます。そんな弁慶に義経はすべてを委ねるのです。

 そして弁慶は、一世一代の大芝居に打って出たり、富樫と丁々発止のやりとりを繰り広げたりと八面六臂の大活躍。息を呑む場面が続きどうにかピンチを切り抜けたと思った矢先、ついに最大の危機が訪れます。

2022.11.26(土)
文=清水まり