スーパー歌舞伎第7作として1999年から2000年にかけて東京・新橋演舞場を始め各地で上演され大好評を博した『新・三国志』が2022年バージョンとなって歌舞伎座に初上陸。
「三月大歌舞伎」第一部で市川猿之助さん演出・主演により上演中です。その舞台の様子と共に、時代の気風を敏感にキャッチしさまざまな状況に応じて柔軟に取り組む市川猿之助さんをクローズアップします。
スピード感が求められる時代の「歌舞伎」のあり方とは
二世紀末、乱世の中国を舞台に劉備、関羽、張飛という三人の武将が率いる蜀と隣国にある魏や呉との闘いを軸とする物語『新・三国志』。
歌舞伎座で上演中の舞台は、従来の上演時間を短くして内容をぐっと凝縮。初演以来作品の根幹を貫いている「夢見る力」というテーマや心に響くせりふがより深く、じんわりと客席に浸透している様子です。
上演時間短縮への取り組みは、実は以前から猿之助さんが行っていたことでした。
「よりスピード感が求められる時代へと移り行く中で決定的な出来事だったのは、2011年の東日本大震災です。震災以降、長い作品や終演時間が遅い公演から人が遠ざかっているのを感じていました」と、猿之助さん。
そこに追い打ちをかけたのが、新型コロナウィルスによるパンデミックです。歌舞伎座は2020年3月から7月まで休館となり、8月に公演を再開したものの上演時間や人数、ソーシャルディスタンスなどさまざまな制約の中で舞台製作を行わなければならなくなりました。その結果、上演可能な作品はどうしても限られていきます。
そして猿之助さんは以前からの取り組みに拍車をかけ、2021年は家の芸である“三代猿之助四十八撰”の『加賀見山再岩藤』(8月)、『天竺徳兵衛新噺 小平次外伝』(10月)、『新版 伊達の十役』(12月)を短時間に凝縮させては歌舞伎座で次々と上演し、好評を博してきたのです。
この『新・三国志』もまた“三代猿之助四十八撰”のひとつで、スーパー歌舞伎として作られた作品の歌舞伎座での上演はこれが初めてとなります。
襲名披露で「スーパー歌舞伎」という大胆な選択
スーパー歌舞伎とは、三代目猿之助を名のっていた市川猿翁さんが創始した歌舞伎の新たなスタイルのことで、現代人の感性に響く物語やスピーディーでスペクタクルな演出に特徴があります。
その第1作が1986年初演の『ヤマトタケル』でした。そして猿之助さんは新橋演舞場(2012年)と博多座(2013年)での四代目猿之助襲名披露狂言として『ヤマトタケル』を上演。
伝統を受け継ぐ決意表明ともいうべき襲名披露で演じるのは代々受け継がれてきた古典の役というのが一般的なのですが、猿之助さんはそうした演目に加えてスーパー歌舞伎を選択したのです。
襲名当時、猿之助さんは次のように語っていました。
「初演から26年、その間に各地の劇場で何度も上演され作品は洗練されてきました。これはもう古典といえるのではないでしょうか。そして伯父(猿翁)から猿之助の名を四代目として受け継ぐのであれば、襲名披露狂言として『ヤマトタケル』を上演すべきだと」
その後、猿之助さんはスーパー歌舞伎のさらなる発展形としてスーパー歌舞伎Ⅱを誕生させ、その第2作『ワンピース』は歌舞伎や演劇ファンのみならず幅広い年齢層に支持され大ヒットしたことはご存じの方も多いことでしょう。
2022.03.16(水)
文=清水まり