誕生から36年、「スーパー歌舞伎」は次のステージへ

 歌舞伎座での『新・三国志』上演に際して猿之助さんは、次のように語っています。

 「江戸時代が終わり西欧の文化や考え方に影響を受けた新歌舞伎が明治に誕生しました。そうした新歌舞伎の作品は今、江戸時代に生まれた古典と肩を並べて歌舞伎座でごく当たり前に上演されています。スーパー歌舞伎も誕生から36年という歳月を思えば、これもまた自然の流れなのではないでしょうか」

 初演当時、観客は激しい立廻りや本水を使ってのスペクタクルな演出に胸躍らせながら戦闘シーンを見つめたものでした。さまざまな制限下にある現在、上演中の舞台にはそうした派手さはありません。ですがそれはじっくりと腰を据えて観られるということでもあります。

 次々と変異ウイルスが出現し、戦争という脅威が現実の出来事となっている今、関羽、張飛の賛同を得て劉備が抱く夢「争いのない、誰もが幸せに暮らす国の実現」に向かう物語は、かつてないほど臨場感をもって味わえるのではないでしょうか。

 才気あふれる演出家や魅力的な出演者に恵まれ上演を重ねることで、作品は不易流行を繰り返しながら、普遍のテーマを軸にやがて古典となっていくのです。冷静かつ客観的に時代を見据え、限られた条件の中で最善をつくす猿之助さんがつくりだす世界は、この後も目が離せないことでしょう。

 そしてもうひとつ。今回の舞台で特筆したいのは、初演時にはまだ幼かった、あるいは生まれていなかった若手世代の活躍です。尾上右近さん、中村福之助さん、市川團子さんが、戦乱の世に生きる人物をそれぞれの個性を際立たせながら瑞々しい感性で表出しているのです。

 この『新・三国志』を彼らの世代が中心となって上演する時が訪れたら、それはどんな世の中でどんな舞台になるのでしょうか……。そんなことに思いを馳せると、それぞれの道に邁進する若手の姿を通して未来に希望の光を見出し勇気づけられたりもします。歌舞伎にはたとえばそんな味わいもあるのです。

2022.03.16(水)
文=清水まり