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舞台上に存在する演者の放つ輝きがとてつもない求心力となって空間を支配する……。日々の舞台に接する中でつくづく実感するのは、歌舞伎俳優というのは専門スキルを身につけたフィジカル・パフォーマーなのだなあ、ということです。
今回は歌舞伎の身体性に着眼点を置き、異ジャンルのコラボレーションが実現した公演をクローズアップしたいと思います。
“初音ミク”と歌舞伎の異色のコラボが実現
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一つ目は中村獅童さんを座頭として誕生した「超歌舞伎」です。2016年春、「ニコニコ超会議」に出現したそれはすべてがあまりに衝撃でした。今でこそ舞台の生配信や視聴者からのダイレクトメッセージが文字として現れる光景は日常の一コマとなりましたが、当時として画期的! しかもそれが、カラフルなウィッグやコスチュームに凝ったメイクでアニメから抜け出したかのようなコスプレーヤーで賑わう幕張メッセで、歌舞伎として上演されたのですから。
獅童さんはロックシンガーさながらのコールアンドレスポンスで会場を沸かせ、この公演をきっかけにそれまで歌舞伎に興味のなかった多くの人からも一気に注目され支持される存在となりました。
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「超歌舞伎」は回を重ねるうちに2019年には京都・南座へも進出。今年の「超歌舞伎2022」では福岡・博多座、愛知・御園座を経て、東京・新橋演舞場、南座でも開催されるほどの広がりを見せています。
獅童さんのお相手役を勤めているのは、いわゆるボカロキャラであるバーチャルシンガーの初音ミクさん。もはや“さんづけ”で呼ばれるほど親しまれ、獅童さんをはじめとする歌舞伎俳優の皆さんとの演技空間に溶け込んでいます。
三次元の現世を生きる獅童さんと二次元の世界で誕生したミクさんが共存、競演できるのはNTTが開発した最新のテクノロジーのおかげで、現実にはあり得ない分身の術などを駆使し鮮やかに次元の壁を乗り越えていきます。そこで注目したいのがミクさんの身体性なのです。おそらくミクさん自身の身体に説得力がなかったら、これほどの盛り上がりにはならなかったのではないでしょうか。
それだけ高度な技術を習得しているということなのですが、実は彼女、日本舞踊藤間流宗家の藤間勘十郎さんから“直に踊りの手ほどきを受けている”のだそうです。要するにモーションキャプチャ(などと記すと、無粋だと叱られそうですが……)。大元の動きのベースとなっているのが、数々の歌舞伎舞踊の振付を手がけているその道の達人である勘十郎さんなのですから納得です。
歌舞伎という演技の基礎を踏まえたバーチャルな身体が、生身の肉体を持つ歌舞伎俳優と共に奏でるステージ・パフォーマンス。そこにこの企画の神髄があるのではないでしょうか。
超歌舞伎2022
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2022年8月21日(日)~9月3日(土) 新橋演舞場、2022年9月8日(木)~25日(日) 南座にて上演予定。
https://chokabuki.jp/2022theatre/
2022.08.21(日)
文=清水まり
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