映画やミュージカル、テレビのバラエティ番組などでも活躍中の若手歌舞伎俳優・尾上右近さんが、歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」第三部で、歴代の名優がそれぞれの時代に観客を魅了してきた『弁天娘女男白浪』の主人公・弁天小僧菊之助を溌剌と演じています。その右近さんにお話をうかがいました。
娘姿に扮して悪事を働く 歌舞伎屈指の人気キャラクター
公演前には「大いに背伸びして背伸びした自分が等身大なつもりで、気持ちよく楽しく潔くまっすぐに熱く熱く演じて、お客さまの心に刺さるような弁天小僧にしたい」と語っていた右近さん。
その言葉通り、右近さんが見せるいくつもの表情に観客はさまざまな反応を見せています。振袖姿も艶やかな娘姿での登場をわくわくした様子で見つめていたかと思うと、実は男である正体を明かす瞬間の場面では場内が静まり返り、ふてぶてしく居直ってからはその威勢のよさに爽快感を味わっている様子です。
開演直前、「ああ、始まる……。なんだか私がドキドキしてきちゃった」と囁く若い女性の声が聞こえてきました。大役に抜擢され輝かしい一歩を踏み出そうとしている右近さんの心情に自身を重ね、今まさに歴史の目撃者となろうとしているファンの思いがその言葉に凝縮されます。
「ありがたいことですよね。特に初日は独特の空気があって、こんなに応援していただいているのだから、これでリラックスしてやれなかったら嘘だろう! という思いでした。だけど歌舞伎座でこのような機会をいただいて緊張しなかったらそれも嘘だろうし……。でも緊張がお客様に伝わってしまうのはやっぱり悔しい。応援で止まってしまったら、その先に行けなくなってしまいますから。昔から『舞台の上では自分が一番上手い、楽屋では自分が一番下手だと思え』という言葉があるのですが、初日の前半は毎分、毎秒が自己肯定の連続でした」
2022.05.23(月)
文=清水まり
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