ネガティブ連発の右近さんに “バディ”坂東巳之助さんがかけた言葉

 物語は弁天小僧が武家の娘のふりをして兄貴分の南郷力丸と共に呉服店「浜松屋」を訪れるところから始まります。そこで弁天小僧は万引き容疑をかけられたあげく算盤で打ち据えられ額に怪我を負ってしまうのですが、これは作戦の範疇。ふたりは仕掛けた罠の種を明かして無実を証明し“名誉棄損”と“傷害”を理由に強請りを始めるのです。そして目的のお金を手に入れるのですが、店の奥から現われた侍に“武家娘”が男であることを見破られてしまいます。そこから「知らざぁ言って聞かせやしょう」に始まるせりふで自身の素性を明かす名場面へとつながっていくのです。

「あそこで『弁天小僧菊之助たぁ、俺がことだぁ』と言って見得をした時に、大丈夫だ! と思えました」

 窮屈な女物の帯をほどいてあられもない格好となる役の人物の変化とあいまって、ここからの右近さんは実にのびのびとしています。時にやんちゃな言動を交えながら自由奔放に振る舞う弁天小僧の小気味よさといったら……。そして坂東巳之助さんが演じる南郷との息の合ったかけあいがまた痛快なのです。

「少し年上の巳之助さんはまさに弁天と南郷の関係で、本当にバディって感じがしています。ふたりとも役が抜けなくて、楽屋入りする時に道でばったり会ったりするといつも悪い冗談ばかり言い合っています(笑)」

 意気揚々と語る右近さんですが、稽古初日は帰宅後に猛反省することになったのだとか。

「稽古の時の音源を聞いたら、自分のせりふがものすごく早かったんです。だけど巳之助さんはそれをガツンと受け止めてちゃんと玉を投げ返してくれていた。いくら何でも自分は走りすぎだと思って詫びの電話を入れたんです。ぜんっぜんダメだ。申し訳ない。恥ずかしい。ごめんなさいって言いまくっていたら、巳之助さんが『もう500円くらいになってると思うよ』って言ってくれたんです」
 
 実は稽古に入る前、右近さんの発案により同世代のメンバーで“ネガティブワード禁止”というゲームを始めたのだそうです。破ったら1回100円の罰金。

「自分から言い出したのにいきなりみんなの貯金ふやしちゃった(笑)。でも巳之助さんのおかげでそこで止まりました」

2022.05.23(月)
文=清水まり
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