歌舞伎と人気ゲームのコラボで話題を呼んでいる、木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』が、IHIステージアラウンド東京で上演中です。

 キャラの再現度やさまざまなディティールに関する話題がSNSを賑わせていますが、それゆえに「ついていけないのでは?」と気おくれしている方も中にはいらっしゃるのではないでしょうか? そこで原作ゲームをほとんど知らない立場での観劇レポートをお届けします。


歌舞伎もFFXも知らないからこその愉しみも!

 主人公は尾上菊之助さん演じる17歳の少年・ティーダ。軸となる物語は、ある日突然!それまで暮らしていた日常とは異なる世界に迷い込んでしまったティーダが、さまざま出来事に出会い仲間となった人々とともに旅に出るというもの。

 見知らぬ土地で湧き上がるティーダの疑問はゲーム未体験者にとっても同様の謎、そんな連帯感の中で並走するうちに「もしかして知らない方がお得かも?」という気さえしてきました。迷いつつも選択を強いられ決断し行動していくティーダと共に一喜一憂するうちに、すっかり主人公目線でその場にいる自分に気づいたからです。

 それはまさにRPGゲームさながらの臨場感であり、素敵な舞台に出会った時の観劇の醍醐味でもあります。何となく耳にしていた「異界送り」「召喚獣」という単語の意味を、劇場という場での自身の実体験で知っていく愉しさは、そのふたつを同時に味わっているような感覚でした。

 歌舞伎という演劇は個性豊かなキャラクターの宝庫で、善悪男女それぞれに役の特性に則した演技術が確立しています。そうした歌舞伎の伝統を礎に舞台の登場人物として色づけされた『FFX』のキャラクターたちが、舞台の上でイキイキと躍動し多彩な魅力を放っています。演じ手の持ち味が生かされたキャスティングに快感を覚える一方、舞台上のキャストにここで今初めて出会ったとしたら自分は何を感じるだろうか、などとも思ったりもしました。

 実は……。役柄に扮した出演者たちの特大ポスターを渋谷駅構内で思いがけず目にした時は、そのあまりの大きさとインパクトに近寄りがたい感じもしていたのでした。ですが、舞台上に等身大の姿で現れた彼らには血の通った人間としての説得力があります。

 画像拡大のような現実の変化はなくとも、演技や演出によって観る者の心の中で人物としての大きさや存在感が増幅するのを目の当たりにして、歌舞伎の見得が映像におけるクローズアップに例えられることを再認識したのでした。

 話している言葉は現代語。そこからさまざまな言い回しにシフトする中でごく自然に歌舞伎的な響きが耳からインプットされていくことに。言葉としても音としてもさまざまに響くセリフと、言葉や感情と連動する動きがフィットした時の心地よさはなんともいえないものがあります。

2023.03.29(水)
文=清水まり
撮影=引地信彦
© SQUARE ENIX/『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』製作委員会