歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」で古代インドの叙事詩をベースに2017年に新作歌舞伎として上演された『マハーバーラタ戦記』、忠臣蔵外伝として有名な作品『松浦の太鼓』と異なる役どころを演じていた中村隼人さん。
来たる2024年1月には「新春浅草歌舞伎」での大役が控え、2月からはスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』に主演。歌舞伎俳優として目が離せない隼人さんの今に迫ります。
仁左衛門から受けた刺激
――夜の部『松浦の太鼓』で演じられていたのは、片岡仁左衛門さん演じる松浦候に仕える江川文太夫。ゴマすり近習、略してゴマ近などと称される役ですが、お殿様の言動を敏感に受け止めている様子が伝わり楽しく拝見しました。
演じ方にはいろいろな考え方があるのですが、松嶋屋のおじさま(仁左衛門)は近年写実のお芝居を追求なさる方ですのでそのようにさせていただいています。昨年12月の南座での顔見世興行でもおじさまの松浦候で勤めさせていただいたお役です。
――近年の上演記録を見ると、歌舞伎座での『ぢいさんばあさん』や『義経千本桜 渡海屋・大物浦』などを始め、京都や大阪など東京以外の劇場でも仁左衛門さん主演の舞台に出演されている姿が印象的です。これは意図してのことなのでしょうか。
おじさまから少しでも歌舞伎の多くのことを吸収したいという気持ちがあります。父(中村錦之助)は立役ですが、時蔵家は、基本的に女方の家系です。自分が立役を目指す中で松嶋屋のおじさまに教えていただく機会を得て、勉強したいという気持ちが強くなっていったんです。
――そもそものきっかけを教えてください。
2019年の「新春浅草歌舞伎」で(尾上)松也さんが『義賢最期』の義賢をなさった時に僕は多田蔵人というお役をいただきました。その時にふたりでおじさまに教えていただきたいと思いお願いしたところ、「では明後日」という話になりまして……。
――快諾してくださった!
あまりの急展開でした。(2018年10月に行われた)南座新開場のパレードの後に京都でお稽古してくださったのですが、あの頃の僕は対応が追いつかず、せりふもすべて覚えきれていないような状況だったにもかかわらず、台本を持ちながら教えてくださいました。
2023.11.25(土)
文=清水まり