この記事の連載
犬山紙子さん[イラストエッセイスト]
Q1:最愛の一作
『ワールドトリガー』(葦原大介/集英社)
私が長年ハマり続けているSFバトルもの。王道の主人公たちの成長物語ですが、それぞれの立場に多様性があるんです。地球を守ると一括りにいっても、その組織内でもそれぞれのバックボーンの違いなどから3つの思想に別れているし、敵国だって、それぞれ立場や思想が違ってくる。「ただ作戦会議をしているだけなのにめちゃくちゃ面白い」「名言が多くて、キャラクターに説得力があるのでものすごく沁みる」という怪物マンガです。
Q2:マンガを読むスタイルは?
出張中の新幹線にて電子書籍で読むことが多いです。一話一話気になっている作品は単話で購入して読みます。
Q3:夜ふかしマンガ大賞に推薦した作品とその理由
『光が死んだ夏』(モクモクれん/KADOKAWA)
青春ホラーBL。田舎の閉塞感など現実と地続き系怖さがまた良い。「激しい執着心」の関係性萌えの人間としては、相手が「化け物」であり「一緒にいてはいけない」という設定に痺れます。
『図書館の大魔術師』(泉光/講談社)
圧倒的な世界の作り込みに、もう一冊の聖書? と思わされる。魅力的なキャラ満載の王道ファンタジーかつ、思想や宗教の違い、戦争により起こる差別、貧困や性別による不平等も描かれる。描き込みと絵の美麗さ、見せ方と、どれをとっても超一流。
『大ダーク』(林田球/小学館)
ダークなのに明るい。グロいのに可愛い。すぱすぱ死ぬのにダジャレがある。唯一無二な絵柄の魅力もそうですが、このアンビバレンツな魅力こそ唯一無二。
Q4:各部門への推薦作品とその理由
●女の人生部門
『AV女優ちゃん』(峰なゆか/扶桑社)
AV女優を取り巻く出来事を切れ味鋭く、元AV女優でもある峰さんが描く。そこから見えてくるのはジェンダーや貧困の問題、さらには「正しさ」の下にある悲しみも。キャラクター一人ひとりの掘り下げ方も深く、彼女らを「正しい」「正しくない」ときっぱり分けることなんてできない。
●胸キュン部門
『Q、恋ってなんですか?』(Fiok Lee/講談社)
大人だからこそ、恋とは何か? から始めたい。性別のない宇宙人と人間の男性の恋物語。恋を知るテーマで、相手を安直に「異性」にしないところも素敵。そして様々な動物の生殖をともに眺めることで、互いに理解を深め合うというアプローチが個性的で好きです。
●グルメ部門
『レトルト以上・ごちそう未満! スキマ飯』(谷口奈津子/KADOKAWA)
何といっても谷口さんの描く食事の絵に愛が溢れている。モツをおいしそうに描かせたら世界一だと思う。テーマがレトルト以上、ごちそう未満のスキマ飯という、ゆるくて、誰でも真似ができて、日常が潤う素晴らしさ! アップグレード目玉焼きは私も真似しています。
犬山紙子(いぬやま・かみこ)
イラストエッセイスト
多くの雑誌で執筆のほか、テレビ、ラジオでも活躍中。ゲームやマンガなど、2次元コンテンツ好き。著書に『アドバイスかと思ったら呪いだった』(ポプラ文庫)
2022.12.10(土)
Text=Ritsuko Oshima(Giraffe)