この記事の連載
井口啓子さん[ライター]
Q1:最愛の一作
『同棲時代』(上村一夫/eBookJapan Plus)
恋愛のすべてがここに詰まっているマスターピース。1972年の作品ですが男女の姿は普遍なんだなと思います。映画『花束みたいな恋をした』にグッときた若者はぜひ読んでみてほしい。絵的にも今見てもスタイリッシュで、海外ではアートコミックとして高く評価されています。
Q2:マンガを読むスタイルは?
気になる新刊は紙で、アプリは夜のチルタイムに随時何作品かを楽しんでます。
Q3:夜ふかしマンガ大賞に推薦した作品とその理由
『ファッション!!』(はるな檸檬/文藝春秋)
現実を照射したエッセイコミックが百花繚乱の盛り上がりを見せている今、フィクションエンタメとしてのマンガ力を感じさせてくれた稀有な作品。ファッションの舞台裏も興味深いし、サイコホラーとしても秀逸!
『ダーウィン事変』(うめざわしゅん/講談社)
人種や価値観の違う他者を受け入れてともに生きるという切実な現代的テーマを半分ヒトで半分チンパンジーの「ヒューマンジー」の物語に落とし込むアイディアに唸らされる。うめざわしゅんの知性と毒とユーモアがポップに暴走する大傑作。ハリウッドでの映画化、待っています。
『恋じゃねえから』(渡辺ペコ/講談社)
性加害を『アートだから』なんてもう言わせない!
Q4:各部門への推薦作品とその理由
●家族部門
『違国日記』(ヤマシタトモコ/祥伝社)
交通事故で両親を亡くした女子高生と作家の叔母、叔母と女子高生の母親、叔母と編集者の元彼氏……。すべての登場人物と彼らそれぞれの血縁を超えた疑似家族的な関係性が不器用で優しくて、揺れ動く距離や思いが愛おしく、宝物のようにしまっておきたくなる台詞がいっぱい。何度も読み返したくなります。
●音楽部門
『俺節』(土田世紀/小学館)
気弱でアガリ症の青年が演歌歌手を目指して津軽から上京。バブルの名残を感じさせる東京の街で〈ダセーんだよ!〉と罵倒されながらも、愚直に自分だけの唄を探し求める。人にとって歌とは何か、考えさせられる魂の咆哮のようなマンガです。
●グルメ部門
『三十路飯』(伊藤静/小学館)
アラサー・独身・彼氏ナシの曲がり角女子がいろいろある日々をおいしいごはんによって乗り切るお話。食べものに救われる日もあるよなーとしみじみした読後感は、よくあるグルメマンガとは一線を画する。食べものの描写もシズル感に溢れ、食事シーンも実感がこもっていてたまらなくそそられる。実在するお店を扱っているのでグルメガイドとしても使えます。
井口啓子(いぐち・けいこ)
ライター
雑誌「ミーツ・リージョナル」にてコラム「おんな漫遊記」を連載中。女を描いた昭和の劇画家・上村一夫が好きすぎて展示を企画したり、小冊子を作ったりも
2022.12.10(土)
Text=Ritsuko Oshima(Giraffe)