暁斎自身も嗜んでいたからこその躍動感
肌が粟立つような幽霊からユーモラスな妖怪たち、磔刑のキリストを釈迦、老子、孔子、伊弉諾尊(あるいは神武天皇か)が囲む戯画、芝居小屋の巨大な引き幕に羽織裏と、ありとあらゆる画題、注文に応じてきた暁斎(笞五十の刑を受け、放免となった41歳の時、号を「暁斎」に改める)は、さまざまな方向からの光を受けて輝くダイヤモンドのような多面体だが、その中のひとつ、暁斎自身も愛好していた、能・狂言をテーマに描いた絵や下絵ばかりを集めたのが、三井記念美術館で開催されている「河鍋暁斎の能・狂言画」展だ。
「狂」で「奇想」な側面ばかりがクローズアップされがちだが、武家の式楽として、江戸時代を通じて尊重されてきた能楽を、暁斎自身も嗜み、舞台に立っていた。傑出した画力を持つ絵師が、能の身体感覚を理解した上で描いた絵には、当時の能のあり方や、能楽師の動きが見事にとらえられ、劇・芸術史、芸能史の興味深い資料にもなっている。
一方歌舞伎に通じる画題の多い多色摺り木版画で、能・狂言の世界を表現した版本『能画図式』(全ページを展示、会期中展示替えあり)には、見慣れた錦絵とはひと味違う、明治の能・狂言世界の様子が垣間見えて面白い。またこのシリーズとは別だが、「東海道名所之内 御能拝見之図」 に描かれた、現代の能の公演に見るお行儀のいい観客席よりだいぶ温度の高い盛り上がりぶりには、驚くやら羨ましいやら。
2013.05.11(土)