あえて熱演をしなかったことで
生まれた名シーン
――また、深川麻衣さん演じる葉子に対する恋愛観や、彼女との距離感を出すための役作りは?
30年も生きていると、同じような経験もあります。じつは深川さんとの撮影は2日間ほどなんです。なので、葉子は昔からの知り合いということを自分に馴染ませるため、深川さんの情報を集めるところから始めたんです。深川さんの写真をめちゃくちゃ集めて見ましたね(笑)。だから、現場で会った時の深川さんは、葉子にしか見えませんでした。そして、観客がナカハラと葉子を観た時のことを考え、本能的に僕と深川さんが演じているだけにならないように、その距離感の塩梅を探すことは相当苦労しました。
――コンビニ前のシーンが印象的でした。エピソードを教えてください。
あそこはストレートに熱演するという方法もあったと思うし、芝居的にもそうする方が簡単なんです。でも、普通ならボルテージが上がって熱くなるところを、ナカハラが持つ羞恥心により、笑ってゴマかすことで、あえて抑える芝居を選びました。彼が弱さで背伸びしている感じの方が真意が伝わると思うし。たとえば、知り合いのお葬式に行って、ボロボロ泣きながら「有難うございました」と言われるより、「わざわざ来てくれて有難ね」と必死に明るく振舞われる方が言葉に詰まる感じ。それを共感してもらいたいと思いますね。
2019.05.03(金)
文=くれい響
写真=白澤 正
ヘアメイク=FUJIU JIMI
スタイリスト=Toshio Takeda(MILD)