1カ月半の稽古で、すべてを叩きこんだ「薄桜鬼」

――そこから、わずか1年後、2012年に舞台「ミュージカル『薄桜鬼』」で初出演にして初主演を務めるわけですが、選ばれたときの気持ちは?

 オーディションで選んでいただいたのですが、一言で言えば運が良かったとしか言えませんね。僕だけが上手くできませんでしたから。経験値がゼロのなか、お芝居と歌と殺陣をやったんですが、すべて上手くできませんでした。自己PRで思いの丈をぶつけただけです。そんな僕の可能性に賭けてくれた「薄桜鬼」のスタッフのみなさんには、感謝の言葉しかありません。人との出会いの大切さも知らされました。

――とはいえ、舞台初日までのあいだに、斎藤一というキャラクターを作っていくことはかなり大変だったのではないでしょうか?

 セリフ量が膨大なうえ、ダンスナンバーが10曲、歌う曲が12曲、殺陣が1200手ありましたから、人生でいちばんキツい時期だったと言えますね。何もできなかった僕が1カ月半で、すべてを叩きこみ、お客さまに届けるものにすることは、今考えてみても震えてしまうほど苦しいものでした。でも、今だったら、できる自信はありますね!

――ちなみに初日が開けての状況はいかがでしたか?

 20歳だったんですが、最初の頃はカーテンコールが終わるまで、客席に笑顔を振りまいていても、あまりの自分のふがいなさに、幕が下りた瞬間にメイク室に駆け込んで泣いていました。それだけ、初日が開けても毎日が苦しい期間でしたね。

~次回は最新主演舞台「男水!」への意気込みについても語っていただきます~

松田凌(まつだ・りょう)
1991年9月13日生まれ。兵庫県出身。2011年に俳優デビューし、翌12年に初出演舞台「ミュージカル『薄桜鬼』斎藤一篇」にて初主演を務める。以後、「メサイア  -銅ノ章-」「ZIPANGパイレーツ」など、多くの舞台に出演する一方、13年「仮面ライダー鎧武/ガイム」にレギュラー出演。17年夏には映画『メサイア外伝 -極夜 Polar night-』が公開される。

舞台「男水!」
水泳界の名門私立「龍峰高校」の推薦テストをきっかけに、傷つけあってしまうピュアな思いを持った秀平(松田凌)、大樹(宮崎秋人)、礼央(安西慎太郎)。1人は「龍峰高校」に、残り2人は廃部寸前の都立「東ヶ丘高校」へ進むが、そこに彼らがかつて憧れた選手・川崎亮也(廣瀬智紀)が現れることで運命が動き出す……。
(C)男水!製作委員会
東京公演:2017年5月11日(木)~21日(日) シアター1010
大阪公演:2017年5月24日(水)~28日(日) 森ノ宮ピロティホール
http://www.dansui-stage.com/

くれい響 (くれい ひびき)
1971年東京都出身。映画評論家。幼少時代から映画館に通い、大学在学中にクイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。その後、バラエティ番組制作を経て、「映画秘宝」(洋泉社)編集部員からフリーに。映画誌・情報誌のほか、劇場プログラムなどにも寄稿。

Column

厳選「いい男」大図鑑

 映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。

2017.05.12(金)
文=くれい響
撮影=佐藤 亘