【次に流行るもう一曲】
Miyuu「Where we'll be」

京都の寺社での洋楽弾き語りを動画配信

伊藤 2曲目は1993年生まれ大阪出身のシンガーソングライター、MiyuuのインディーズEP「Where we’ll be」です。最初に彼女を見たのは1stデジタルシングルの「Southern Waves」のMVなんですけど、YUIと間違えるほどの歌声と歌う姿。ほかの映像や画像でみる実際の彼女はそこまでYUI似ではないんだけど、アーティスト名からも窺えるYUIに対するリスペクトを感じますね。

山口 アーティスト写真からもYUIが彷彿されます。人気が出そうなキャラクター、ルックスですね。

伊藤 京都の神社やお寺でマルーン5やブルーノ・マーズのカバーをするという動画をYouTubeにアップしてプロモーションしていますね。京都×洋楽カバーという切り口、海外のリスナーも視野に入れているように感じますが、山口さんはどう思いますか?

山口 京都の名所を映像で紹介しつつ、有名な洋楽曲をカバーするというのは、SEOや関連動画などを意識した、YouTubeで拡散するセオリーに忠実な手法です。彼女の場合はきちんとポリシーをもってやっている姿勢が好感を持てますね。再生回数は5~6万回と爆発的とは言えませんが、こういう丁寧なやり方は、アーティストのブランド構築につながるし、ユーザーとのエンゲージメント(長期的な信頼関係)構築にもプラスだと思いますよ。

伊藤 あと面白いと思ったのは“Miyuuがやりたい7つのこと”というものがあって、その中のフリーライブ、ビーチでのアコースティックライブ、スタジアムライブっていうのはシンガーソングライターであればありそうな希望ですが。このほかに空間演出、CM音楽、映画音楽とクリエイターとしての一面があること。あとは“グルメや観光をセットにしたパッケージツアー”って……もうこれはアーティスト自身がちゃんとビジネスまで考えている。事務所にとっては力強いですね(笑)。

山口 今は「良い曲を作ること」だけを考えていると袋小路に入りがちな時代なのは事実なので、こういう発想はあるだけでも素晴らしいですね。「異業種コラボレーション」は僕のプロデューサーとしてのモットーでもあるので、機会があれば協力したいです。残りの2つは、「新しいテクノロジーの活用」と「グローバル展開」なので、YouTubeから訪日外国人向けの動画をアップしている彼女は、僕の3つのモットーをすべて体現している存在といえます。

伊藤 ですね。あと彼女が言っているのが“1年で100曲作ること”。これはまさに山口さんが若い作曲家たちに口を酸っぱくして言っていることですよね?

山口 山口ゼミを2013年1月から始めて、『プロ直伝! 職業作曲家への道』という書籍も出版して、プロの作編曲家との交友関係が広がったんですよ。「作曲家リレートーク」って対談イベントをシリーズでやりました。僕は一流の作曲家、サウンドプロデューサーの成功の秘訣を掘り下げたかったし、彼らは音楽業界が制度疲労を起こしていることを見抜いていて、危機感があるから、その解答方法を僕から訊き出そうとするという関係だったと思います。こちらとしては「俺に押し付けないで、一緒に考えようよ」というスタンスですけどね(笑)。そんな有意義なコミュニケーションの中で、成功する人にはそれぞれの個性の数だけやり方はあるのだけれど、一つだけ共通点が見つかったんです。それは、成功する作曲家は、必ず年間100曲以上作曲をする数年間を過ごしているということなんですよ。

伊藤 特に専業職業作家において、数をこなす時期ってプロの道を究めるために必要なことですよね。もちろん、それだけではいけないんだけど、技術やこだわり、ポリシーとか人間力を鍛えるためにも通るべき時期。成功してからのほうが辛いことなんてあるんだし、そんな時にこの時期が身を助けるんじゃないかな。Miyuuがそれを意識しているかは知らないけど、“Miyuuがやりたい7つのこと”から彼女が新世代のシンガーソングライターであることが感じられる。インディーズとはいえ、クリエイティブのクオリティとしっかりとしたプロモーションからすると、メジャーデビューは遠い先のことではないでしょうね。そのタイミングでどんな顔を見せてくれるか、楽しみなアーティストです。

山口 期待しましょう。ライブも観てみたいです。

Miyuu「Where we'll be」
AMG 2016年12月21日発売
926円(税抜)
■Miyuuは、1993年生まれ、大阪府出身のシンガーソングライター。京都の寺社でマルーン5の「マップス」やブルーノ・マーズの「ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・アー」などを弾き語る動画を配信し、話題を呼ぶ。2016年9月に初のデジタルシングル「Southern Waves」をリリース。本作がフィジカル盤デビュー。
■「Where we'll be」作詞・作曲/Miyuu
http://avex.jp/miyuu/

山口哲一 (やまぐち のりかず)
(株)バグ・コーポレーション代表取締役、コンテンツビジネス・エバンジェリスト、音楽プロデューサー。「デジタルコンテンツ白書」(経済産業省監修)編集委員。経済産業省「コンテンツ産業長期ビジョン検討委員会」委員。国際基督教大(ICU)高校卒。早稲田大学在学中から音楽のプロデュースに関わり、中退。1989年、バグ・コーポレーションを設立。音楽プロデューサーとしてSION、村上“ポンタ”秀一のマネージメントや、東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストをプロデュースする一方、音楽ビジネスとITに関する実践的な研究を行っている。プロデュースのテーマは、新しいテクノロジーの活用、グローバル展開、異業種コラボレーション。2011年頃から著作活動を始め、国内外の音楽ビジネス状況の知見を活かし、音楽(コンテンツ)とITに関する提言を続けている。エンタメ系スタートアップを対象としたアワード「START ME UP AWARDS」をオーガナイズし、プロ作曲家育成「山口ゼミ」や「ニューミドルマン養成講座」を主宰するなど、次世代の育成にも精力的に取り組む、異業種横断型のプロデューサー。近著に『新時代ミュージックビジネス最終講義』(リットーミュージック)、『10人に小さな発見を与えれば、1000万人が動き出す。』(ローソンHMV)、『最先端の作曲法 コーライティングの教科書』(リットーミュージック・伊藤涼との共著)、『とびきり愛される女性になる。 恋愛ソングから学ぶ魔法のフレーズ』(ローソンHMV・伊藤涼との共著/「ラブソングラボ」名義)、『DAWで曲を作る時にプロが実際に行なっていること』(リットーミュージック)、『世界を変える80年代生まれの起業家 起業という選択』(スペースシャワーブックス)、『プロ直伝! 職業作曲家への道』(リットーミュージック)などがある。
Twitter https://twitter.com/yamabug
BLOG http://yamabug.blogspot.jp/
詳細プロフィール http://yamabug.blogspot.jp/2010/05/profile.html

伊藤涼 (いとう りょう)
音楽プロデューサー、ソングライター。「青春アミーゴ」などのミリオンセラーをプロデュース、後にフリーランスに。ソングライターとして、乃木坂46「走れ!Bicycle」、AKB48「ここにいたこと」などの作品がある。作詞アナリスト、フードミュージックプロデューサーとしても活躍。論理的で明晰な分析力に注目。著書に『作詞力 ウケル・イケテル・カシカケル』(リットーミュージック)、山口哲一との共著に『最先端の作曲法 コーライティングの教科書』(リットーミュージック)がある。
マゴノダイマデ・プロダクション http://www.mago-dai.com/
ブログ「伊藤涼の音楽」 http://ameblo.jp/magodai/
伊藤涼が主宰する作詞研究室リリック・ラボ 
https://www.facebook.com/lyric.laboratory/?ref=ts&fref=ts

Column

来月、流行るJポップ チャート不毛時代のヒット曲羅針盤

音楽ビジネスとITに精通したプロデューサー・山口哲一。作詞アナリストとしても活躍する切れ者ソングライター・伊藤涼。ますます混迷深まるJポップの世界において、この2人の賢人が、デジタル技術と職人的な勘を組み合わせて近未来のヒット曲をずばり予見する!

2016.12.14(水)
文=山口哲一、伊藤涼