音楽ビジネスとITに精通したプロデューサー・山口哲一。作詞アナリストとしても活躍する切れ者ソングライター・伊藤涼。ますます混迷深まるJポップの世界において、この2人の賢人が、デジタル技術と職人的な勘を組み合わせて近未来のヒット曲をずばり予見する!

 最終回となる今回は、総集篇をお届けします。

3年7カ月の長きにわたる
連載を振り返る

コトリンゴ「誰か私を」(2014年3月5日発売)

山口 ついに最終回ですね。2013年8月29日から始まったので、3年と7カ月にわたって連載を続けて、今回が79本目のコラムになります。長くやらせてもらってありがたかったですね。

伊藤 はい。このコラムのおかげで、毎月2回必ず新譜をチェックして2曲ピックアップする作業をしました。おかげで新しいアーティストやその音楽に敏感になりましたし、すごく勉強させていただきました。それに紹介したアーティストの曲を、このコラムがきっかけで聴いたという人が、好きになったという声もあって嬉しかった。

山口 Jポップの楽曲をチェックする幅が広くなりましたね。僕が聴くのは、伊藤さんが選んだ2曲だけでしたけれど、それでも何かコメントするならいい加減には書けないから、毎回、必死に聴いて、勉強になりました。素敵なアーティスト、楽曲と出逢う機会になりました。

 それから2周年の時にイベントをやったのも記憶に残っています。楽しいイベントでした。

伊藤 黒木渚とYun*chiも来てくれて盛り上がりましたね。お客さんもたくさん来てくれたし、今更ながらもっとやってもよかったなと思っています。

山口 アーティストにパフォーマンスではなくて、作品について語ってもらうっていうのは面白い試みでした。あの時に、伊藤涼の妄想分析の「美女朗読」をお願いした、元準ミス・ユニバース・ジャパンの小幡尚美ちゃんは、あの後すぐに結婚して、もうママになっていますよ。Time Goes Byですね。

伊藤 尚美ちゃん、ママになったんだ。おめでとう! 自分の妄想を気持ちを込めて読んでもらうのは嬉しかったし、すこし恥ずかしい気もしましたね。それに妄想分析って何だったんでしょうね(笑)? 特に分析をしているつもりはなかったですけど、人の曲から湧いてくる妄想をまた表現に落とし込んでいくって、新しかったですよね。個人的には良いトレーニングになりましたし、作品を詩で評するというか、これって作詞や小説を書くときの基本でもあるように感じます。

山口 でしょうね。以前、ラジオで坪井安奈ちゃんに「美女朗読」してもらった時に、これってワインのソムリエみたいですねって見抜かれたけれど、4年近くJポップの楽曲を妄想分析し続けたのは貴重な体験ですね。一番記憶に残っているコラムは何ですか?

伊藤 そうですねぇ。ちょうど3年前に紹介したコトリンゴは、いま話題になっているアニメ映画『この世界の片隅に』で劇伴を担当していますね。映画を観ましたが、絵と声がマッチしていて素晴らしい世界を作っていました。

山口 まだ知名度が低い時に紹介しましたよね。僕は実は観てないのですが、映画の評判もすごくいいですね。

伊藤 飛行機のなかで観たんですけど、戦争と日常と自己表現っていうのが交錯する唯一無二な雰囲気をもった映画でした。いろいろ考えさせられる内容ですが、ちょっと飛行機で観るには悲しすぎて涙を隠すのに苦労しましたが。

山口 他にも何かありますか? コラムで紹介した後に、ブレイクしてくれると、やっぱりうれしいですよね。

伊藤 そうですね。

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2017.03.31(金)
文=山口哲一、伊藤涼