MVはシミュレーションゲーム仕立て!

伊藤  空想委員会っていえばMV。楽曲と男の空想映像をうまくリンクさせるところが彼らの売りで、特に「春恋、覚醒」って曲のMVは印象的でした。可愛い女の子が登場して、それを追う男の空想を映像でうまく表現している。男にしてみると「わかる、わかる!」って感じが受けたんでしょうね。

山口 メンバーの演奏シーンがドラマのBGM的に存在するというMVの手法は、イマドキ感あるけれど、ここまで思い切りよくやっていると効果的ですね。メンバーの表情も洒脱で、好きになります。

伊藤 でも今回の「色恋狂詩曲」は別れの歌で、わざわざネガティブなことを空想するというのはなんだか違和感がある。「春恋、覚醒」の空想は男の期待を込めた妄想を歌と映像で表していたのに……さて、どうやってこれを映像にするんだろう? って思った。それでYouTubeで検索したらありました。“「色恋狂詩曲」(恋愛シミュレーションゲーム型MV)”だそうです。ゲームに見立てたMV、う~ん、ちょっと悩んだかな(笑)。

山口 この連載を始めて3年以上経ちます。月に2回×2アーティストのJポップ作品を集中して聴き、アーティストについて考えるという作業をやることになっていて、僕にとって、すごく有意義なんですよ。今回も空想委員会について真剣に考えているうちに、「今の日本の若者の恋愛におけるナイーブさ」について想いを馳せました。最近で言えば、TBSの火曜ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で、星野源演じる主人公が、30代半ばで童貞という設定になっていましたが、恋愛で傷つくことを極端に忌避し、同時に相手のことも過剰に気遣う性格というのは最近のプロトタイプな気がします。日本ではそういう「ナイーブ男子」が増えているのだなと。空想委員会の人気もそういう分析ができませんか?

伊藤 なるほど。たしかに、女子の恋愛感情を空想で満たすために生まれた少女漫画が、いまやイマドキのナイーブ男子にも必要になっている。それが漫画だけでなくいろいろなメディアで表現されているのかも。たしかに空想委員会のMVは男性版の少女漫画という感じ。

山口 同性から受けるのはわかるとして、今は、そういうナイーブ男子が女子からモテるんですよ、多分ね。草食系男子って言葉が出てきた頃は、同世代の女子からはネガティブなニュアンスで捉えられていたと思うけれど、変わってきた気がします。

伊藤 男子が化粧して、女子が肉をむさぼる時代ですからね(笑)。

2016.12.14(水)
文=山口哲一、伊藤涼